嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

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三章 嫌われ将軍、嫌われすぎて童貞処女な現実

手伝おうか?

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 通された所は、複数人が使うことを見越した部屋なのか広々としていた。

 十人ほどが囲んで雑談できそうな絨毯が敷かれた間と、横に広く伸びたベッド――どんな行為が行われるのか、一見して察することができてしまう。

 そういう場所なのだから仕方がないと自分に言い聞かせながら、ガイは絨毯の上であぐらをかく。

 エリクも律儀に「失礼します」と断ってから、ガイの隣に座る。

 目的の女性はまだ来ない。
 静かにしているとエリクの息遣いが聞こえてしまい、それが妙にガイの耳をくすぐる。

 気になってしまい目を向けると、すぐにガイの視線に気づいたエリクが息を詰まらせ、目を逸らした。

「すみません……慣れない場所で、落ち着かなくて」

「分かる、俺もだ。話を聞き終えたら、すぐ宿に戻ろう」

「宿に……そう、ですね……」

「どうした? やはりここに残りたいのか?」

 ガイが尋ねると、エリクは激しく首を横に振り、全力で否定してくる。

「一刻も早く出たいです! ただ、その、宿に戻ると、自分を抑えられなくなりそうで……」

 軽くうつむき、エリクがもどかしげにため息をつく。

「店内の香りが、どうやら欲を煽る類のものらしく……今も痛くて……」

 何が、と言わなくてもエリクの下半身の事情を察してしまい、ガイは心から同情する。

 ただでさえ何もないのに反応する、エリクの男の証。一緒に旅を始めてから、それを発散した様子はない。

 自分に遠慮して、ずっと溜め込んでいるのだろう。そう思ってガイはエリクが抜け出して済ませられるよう、一人になれる時間を作ろうとするが、常にガイの元に居ようとして離れない。

 自分で処理するのも、店を利用するのも駄目。我慢一択というのはあまりにキツいのでは? と本気で心配になってくる。

 そんな心からの心配と、店の香りと雰囲気に押され、ガイの口から普段は言わないことが溢れてしまった。


「……俺が楽になるよう、手伝おうか?」


 エリクが石像のごとく固まる。

 それを目の当たりにして、おかしなことを言ってしまったとガイは我に返る。

「いや、すまない。忘れてくれ……こんな中年の無骨な男に、何かされるなど――」

 ガシッ!
 突然エリクが膝を立てて体を起こし、ガイの両肩を掴む。

 焦ったような、今にも目の前の獲物を喰らう魔物のような。血走った目でガイを見下ろしながら告げてきた。

「安易にそんな己を犠牲にするようなことを言わないで下さい! もっとご自分を! 大切に!」

「エ、エリク……うむ、気遣いは嬉しいが、嫌なものは嫌と正直に言って良いのだぞ?」

「嫌ではありません! むしろ願ったり叶ったりです!」

 ……早く出たほうがいいようだ。俺もエリクも錯乱している。

 あまりにおかしすぎることを言われて、ガイは固まる。

 口から出てしまった言葉の異常さに気づいたのか、エリクも硬直する。

 部屋のすべてが時間ごと凍りつく中、

「あ、あの……失礼致します」

 キィ……と、ささやかな音を立てながら扉が開き、おどおどした影が薄い女性が顔を覗かせた。
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