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二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中

特別に親密な仲になった覚えはないが?

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   ◇ ◇ ◇

 ゲインの案内で森を抜け、ガイたちは三日月が真上に昇る頃、屋敷に到着した。

 建物の中に入る前に、庭のほうからブルルと馬のいななきが聞こえてくる。
 もしかしてと思いガイが目を向けると、二人の愛馬が餌と水を与えられてもてなされている最中だった。

「ゲイン将軍、本当に感謝する。あの馬は長年の友なんだ。二度と会えないことも覚悟していたのに……」

「原因はこちら側にあるんだ、恩は感じないでくれ……ここに来た時、とにかく来てくれと屋敷の者やオレの服を引っ張っていた。あれは主人思いの良い馬だな」

 馬を降りてガイに近づきながら、ゲインが話しかけてくる。

「ここを出る前に、屋敷の者に部屋の用意を頼んでおいた。今晩はゆっくりと休んでくれ。朝はこの地域の名物を振る舞うから、楽しみにしていて欲しい」

「何から何までかたじけない、ゲイン将軍」

「ゲインでいい。オレもガイと呼ばせてもらう。立場は敵同士ではあったが、あれだけ何度も顔を合わせていたんだ。オレの中では戦友だ」

 快活に笑うゲインにつられて、ガイも顔が緩む。
 何度戦っても倒せない難敵だったが、あまりに真っ直ぐな戦いぶりで嫌いにはなれなかった猛将。こうして戦わずに話すのは初めてだが、この男なら大丈夫だという安心感があった。

「ありがとうゲイン」

 手を差し出してガイはゲインと握手を交わす。あまりの力強さにガイも握り返し、長年の親友が再会を喜ぶような固い握手となる。

 なかなかゲインの手から力が抜けず、このまま離さないのではとガイが思いそうになっていると、

「……ところでつかぬことを聞くが、後ろの者はガイの従者か?」

 ゲインが目をエリクに向け、わずかに苦笑を浮かべる。
 つられてガイも振り向くと、エリクが背後で表情を消し、ゲインを睨みつけていた。

 私的な場とはいえ、他国の将に対してあまりに無礼な態度。エリクは隣国との戦に参加していなかったが、ゲインは元敵将であり、レアランダ王国を苦しめてきた相手。それ故に敵意を押さえきれないのだろうとガイは考える。

 目配せして態度を慎むようにとガイが訴えると、エリクは小さくハッとしてからゲインに頭を下げ、敬意を示してくれた。

「従者というより、旅の仲間みたいなものだ。名は――」

「エリクと申します。ゲイン様とお会いできて、誠に恐悦至極です」

 凛とした声でエリクが話に割って入ると、ガイに近づき、寄り添うように並ぶ。

 そして、なぜか甘く蕩けた目でガイを見つめ、告げてきた。


「先ほどの洞窟内でご覧になられたように、ガイ様とはこの旅の中で特別に親密な仲となりました」


 ま、待てエリク。
 確かに旅の中で親密さは増したとは思うが、その言い方は語弊があるだろ?!

 特別に親密な仲――契りを交わした恋人に使う言葉だ。
 まったく身に覚えのない言葉に、思わずガイの全身がカッと熱くなり、鼓動が速くなる。
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