18 / 100
二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中
元敵将ゲインの招待
しおりを挟む
不意にエリクの手がガイの頬に添えられる。
何をされているのか予想がつかず、ガイが体を固まらせていると――。
「見つけたぞ、ガイ!」
突然、洞窟の中が明るくなり、聞き覚えのある濁った大声が飛び込んでくる。
咄嗟にガイは離れようとしたが、エリクに力ずくで腕の中に閉じ込められてしまう。
まるで奪われまいとする子供のオモチャになった気分でいると、無遠慮な足音と大柄な影が洞窟に入ってくる。
松明を持ったその男は、ガイたちの前に立つ。
そして勢いよく頭を下げた。
「オレの部下が悪いことをした。申し訳ない!」
予期せぬ言動にガイとエリクは各々に顔を上げて大男を見る。
何も知らぬエリクは呆気に取られるばかりだが、ガイは違った。
「ゲイン将軍、なぜこのような場所に貴殿が?」
その声、その立ち姿、その存在感。
唯一無二と言っても過言ではない彼の容姿を、見間違うはずがなかった。
何年も剣を交え、命をかけて戦い続けた敵将ゲイン・カレロ。
こうして顔を合わせるのは数年ぶりだが、見た目は以前と同じ筋肉の鎧を着た大熊だ。
しかし、大きく見開いた目には殺気混じりのギラつきはない。
ガイと同年代のはずだが、やけにその目は澄んだ輝きを放ち、大きな口は喜びに緩んでいるように見えた。
「この一帯はオレの領地で森の近くに屋敷があるんだが、お前の愛馬が来てな。それでお前が来ていると思って、砦を任せていたラヒュを問いただして探しに来たんだ」
「ラヒュとは、赤髪の彼か?」
ガイの問いかけにゲインは大きく頷く。
「ああ。オレの副将だ。お前と戦っていた時、オレが一騎打ちできるように兵を先導してもらっていた男だ」
副将ラヒュの名だけなら、戦の時にガイは耳にしていた。
痩身でしなやかな体つきだが、ゲインと同じ勇猛果敢な戦いぶりだと聞いていた。直接戦うのはゲインばかりだったせいで、姿は今日初めて認識した。
そのラヒュがなぜ自分を見て激昂し、襲いかかり、泥棒猫呼ばわりしてきたのだろうか?
尋ねてもいいものだろうかとガイが迷っていると、ゲインはわずかに苦笑を浮かべながら話を続けた。
「もう敵国ではないのに私情で襲いかかるなど、本来ならあってはならないこと。ガイ・デオタードとその従者に謝罪する。本当にすまなかった。どうか我が屋敷でもてなしを受けてくれ」
命をかけて殺り合ってきた相手に、こんな形で救われる日が来るとは。
時の流れと、本当に敵国ではなくなったことを実感しながら、ガイは心から安堵して頷いた。
「感謝するゲイン将軍。その言葉に一晩だけ甘えさせて欲しい」
「一晩と言わず、何日でも過ごせばいい。ガイ将軍とは前からじっくりと話がしたかったんだ。ラヒュの奴が口うるさくオレに言ってきそうだが、そこはまあどうにかする」
一瞬ゲインの目が泳ぎ、豪快さが弱まる。
どこの将軍も副将には弱いものなのだろうとガイが共感していると、不意にエリクの腕に力がこもる。
もう危機は去ったのだから、そろそろ解放してくれて良いだろう。
ガイがエリクの腕を軽く叩いてその意思を伝えると、ようやく締め付けが弱まる。
しかし体を離してエリクの顔を見ると、襲撃の心配はなくなったというのに険しく、表情が苦しげに曇ったままだった。
何をされているのか予想がつかず、ガイが体を固まらせていると――。
「見つけたぞ、ガイ!」
突然、洞窟の中が明るくなり、聞き覚えのある濁った大声が飛び込んでくる。
咄嗟にガイは離れようとしたが、エリクに力ずくで腕の中に閉じ込められてしまう。
まるで奪われまいとする子供のオモチャになった気分でいると、無遠慮な足音と大柄な影が洞窟に入ってくる。
松明を持ったその男は、ガイたちの前に立つ。
そして勢いよく頭を下げた。
「オレの部下が悪いことをした。申し訳ない!」
予期せぬ言動にガイとエリクは各々に顔を上げて大男を見る。
何も知らぬエリクは呆気に取られるばかりだが、ガイは違った。
「ゲイン将軍、なぜこのような場所に貴殿が?」
その声、その立ち姿、その存在感。
唯一無二と言っても過言ではない彼の容姿を、見間違うはずがなかった。
何年も剣を交え、命をかけて戦い続けた敵将ゲイン・カレロ。
こうして顔を合わせるのは数年ぶりだが、見た目は以前と同じ筋肉の鎧を着た大熊だ。
しかし、大きく見開いた目には殺気混じりのギラつきはない。
ガイと同年代のはずだが、やけにその目は澄んだ輝きを放ち、大きな口は喜びに緩んでいるように見えた。
「この一帯はオレの領地で森の近くに屋敷があるんだが、お前の愛馬が来てな。それでお前が来ていると思って、砦を任せていたラヒュを問いただして探しに来たんだ」
「ラヒュとは、赤髪の彼か?」
ガイの問いかけにゲインは大きく頷く。
「ああ。オレの副将だ。お前と戦っていた時、オレが一騎打ちできるように兵を先導してもらっていた男だ」
副将ラヒュの名だけなら、戦の時にガイは耳にしていた。
痩身でしなやかな体つきだが、ゲインと同じ勇猛果敢な戦いぶりだと聞いていた。直接戦うのはゲインばかりだったせいで、姿は今日初めて認識した。
そのラヒュがなぜ自分を見て激昂し、襲いかかり、泥棒猫呼ばわりしてきたのだろうか?
尋ねてもいいものだろうかとガイが迷っていると、ゲインはわずかに苦笑を浮かべながら話を続けた。
「もう敵国ではないのに私情で襲いかかるなど、本来ならあってはならないこと。ガイ・デオタードとその従者に謝罪する。本当にすまなかった。どうか我が屋敷でもてなしを受けてくれ」
命をかけて殺り合ってきた相手に、こんな形で救われる日が来るとは。
時の流れと、本当に敵国ではなくなったことを実感しながら、ガイは心から安堵して頷いた。
「感謝するゲイン将軍。その言葉に一晩だけ甘えさせて欲しい」
「一晩と言わず、何日でも過ごせばいい。ガイ将軍とは前からじっくりと話がしたかったんだ。ラヒュの奴が口うるさくオレに言ってきそうだが、そこはまあどうにかする」
一瞬ゲインの目が泳ぎ、豪快さが弱まる。
どこの将軍も副将には弱いものなのだろうとガイが共感していると、不意にエリクの腕に力がこもる。
もう危機は去ったのだから、そろそろ解放してくれて良いだろう。
ガイがエリクの腕を軽く叩いてその意思を伝えると、ようやく締め付けが弱まる。
しかし体を離してエリクの顔を見ると、襲撃の心配はなくなったというのに険しく、表情が苦しげに曇ったままだった。
266
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる