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二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中

元敵将ゲインの招待

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 不意にエリクの手がガイの頬に添えられる。

 何をされているのか予想がつかず、ガイが体を固まらせていると――。

「見つけたぞ、ガイ!」

 突然、洞窟の中が明るくなり、聞き覚えのある濁った大声が飛び込んでくる。

 咄嗟にガイは離れようとしたが、エリクに力ずくで腕の中に閉じ込められてしまう。

 まるで奪われまいとする子供のオモチャになった気分でいると、無遠慮な足音と大柄な影が洞窟に入ってくる。

 松明を持ったその男は、ガイたちの前に立つ。
 そして勢いよく頭を下げた。

「オレの部下が悪いことをした。申し訳ない!」

 予期せぬ言動にガイとエリクは各々に顔を上げて大男を見る。

 何も知らぬエリクは呆気に取られるばかりだが、ガイは違った。

「ゲイン将軍、なぜこのような場所に貴殿が?」

 その声、その立ち姿、その存在感。
 唯一無二と言っても過言ではない彼の容姿を、見間違うはずがなかった。

 何年も剣を交え、命をかけて戦い続けた敵将ゲイン・カレロ。

 こうして顔を合わせるのは数年ぶりだが、見た目は以前と同じ筋肉の鎧を着た大熊だ。

 しかし、大きく見開いた目には殺気混じりのギラつきはない。
 ガイと同年代のはずだが、やけにその目は澄んだ輝きを放ち、大きな口は喜びに緩んでいるように見えた。

「この一帯はオレの領地で森の近くに屋敷があるんだが、お前の愛馬が来てな。それでお前が来ていると思って、砦を任せていたラヒュを問いただして探しに来たんだ」

「ラヒュとは、赤髪の彼か?」

 ガイの問いかけにゲインは大きく頷く。

「ああ。オレの副将だ。お前と戦っていた時、オレが一騎打ちできるように兵を先導してもらっていた男だ」

 副将ラヒュの名だけなら、戦の時にガイは耳にしていた。
 痩身でしなやかな体つきだが、ゲインと同じ勇猛果敢な戦いぶりだと聞いていた。直接戦うのはゲインばかりだったせいで、姿は今日初めて認識した。

 そのラヒュがなぜ自分を見て激昂し、襲いかかり、泥棒猫呼ばわりしてきたのだろうか?

 尋ねてもいいものだろうかとガイが迷っていると、ゲインはわずかに苦笑を浮かべながら話を続けた。

「もう敵国ではないのに私情で襲いかかるなど、本来ならあってはならないこと。ガイ・デオタードとその従者に謝罪する。本当にすまなかった。どうか我が屋敷でもてなしを受けてくれ」

 命をかけて殺り合ってきた相手に、こんな形で救われる日が来るとは。
 時の流れと、本当に敵国ではなくなったことを実感しながら、ガイは心から安堵して頷いた。

「感謝するゲイン将軍。その言葉に一晩だけ甘えさせて欲しい」

「一晩と言わず、何日でも過ごせばいい。ガイ将軍とは前からじっくりと話がしたかったんだ。ラヒュの奴が口うるさくオレに言ってきそうだが、そこはまあどうにかする」

 一瞬ゲインの目が泳ぎ、豪快さが弱まる。
 どこの将軍も副将には弱いものなのだろうとガイが共感していると、不意にエリクの腕に力がこもる。

 もう危機は去ったのだから、そろそろ解放してくれて良いだろう。
 ガイがエリクの腕を軽く叩いてその意思を伝えると、ようやく締め付けが弱まる。

 しかし体を離してエリクの顔を見ると、襲撃の心配はなくなったというのに険しく、表情が苦しげに曇ったままだった。
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