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二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中
何かが噛み合わないけれども
しおりを挟むいつ会ってもそんな顔を見せられ、友達に接するように近い距離で肩や腕に触れ、会えて嬉しいという喜びが溢れていた先王。
今まで生きてきた中で、唯一自分を懐に入れていた人。
この先、きっと死ぬまでそんな人は現れないだろう――とガイが考えていると、
「……あれだけあからさまに接していたのに、子ども扱いされているとしか思っていなかったなんて。信じられない」
エリクから声を揺らしながらの呟きが聞こえてくる。
何を言っているのだろうかとガイが首を傾げていると、エリクは呪文でも唱えるようにブツブツと呟き続けた。
「もしや周りはずっと勘違いしていた? あれだけのことをされていてもなびかない姿を見て、誰が行っても上手くいくはずがないと……ならばいっそ誰のものにもならないと割り切って、尊い御身を守ることに専念していたと考えれば――」
「エリク、何を言っているんだ?」
「――はっ、すみません。ちょっと考え事が止まらなくなりまして」
「君はたまにいきなり不思議な状態になる時があるが……どうして今、そんな人生最高の幸運でも掴んだような輝いた表情になっているのか、理由を聞いてもいいか?」
どう考えても、エリクが喜び興奮するようなことは話していない。
なのに目の前の彼は、この世の春を手に入れたと言わんばかりの輝きを顔に浮かべ、さらに満面の笑みを浮かべた。
「たった今、私の目の前にそれが現れたからです」
「い、今? 今なのか?」
「はい! こんなに生きていて良かったと思う日が来るとは思いませんでした」
にこやかにそう言い切ると、エリクは受け取った食事をどんどん口に運んでいった。早く食べる割に、一口一口を堪能して美味しさを深く噛み締めたような蕩けた顔を見せていた。
やっぱり理解できない。
理解できないことは、『エリクとはこういう人間なのだ』と丸々受け入れたほうが早いと、ガイは今までの人生で悟っていた。
度胸と野心のある変わり者。
それがエリクなのだと認識して、ガイも食事を進めていく。
噛み合わない居心地の悪さを覚えたのはほんの少しの間だけ。
「ガイ様の手料理、最高です! 塩加減も焼き加減も絶妙で、むしろ塩のみの味付けが素材の味を引き出していて絶品です! こんなに美味しい焼き料理は初めてです」
お世辞なのかもしれないが、それはもう美味しくてたまらない様子でエリクが褒め称えてくれた。
自分が戦う以外でしたことで、ここまで喜んでくれたのは初めてかもしれない。
エリクの料理への褒め殺しが、追っ手から逃げるための潜伏という状況にもかかわらず、腹も胸も満たすひとときにしてくれた。
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