嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

文字の大きさ
上 下
16 / 100
二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中

何かが噛み合わないけれども

しおりを挟む

 いつ会ってもそんな顔を見せられ、友達に接するように近い距離で肩や腕に触れ、会えて嬉しいという喜びが溢れていた先王。

 今まで生きてきた中で、唯一自分を懐に入れていた人。
 この先、きっと死ぬまでそんな人は現れないだろう――とガイが考えていると、

「……あれだけあからさまに接していたのに、子ども扱いされているとしか思っていなかったなんて。信じられない」

 エリクから声を揺らしながらの呟きが聞こえてくる。
 何を言っているのだろうかとガイが首を傾げていると、エリクは呪文でも唱えるようにブツブツと呟き続けた。

「もしや周りはずっと勘違いしていた? あれだけのことをされていてもなびかない姿を見て、誰が行っても上手くいくはずがないと……ならばいっそ誰のものにもならないと割り切って、尊い御身を守ることに専念していたと考えれば――」

「エリク、何を言っているんだ?」

「――はっ、すみません。ちょっと考え事が止まらなくなりまして」

「君はたまにいきなり不思議な状態になる時があるが……どうして今、そんな人生最高の幸運でも掴んだような輝いた表情になっているのか、理由を聞いてもいいか?」

 どう考えても、エリクが喜び興奮するようなことは話していない。
 なのに目の前の彼は、この世の春を手に入れたと言わんばかりの輝きを顔に浮かべ、さらに満面の笑みを浮かべた。

「たった今、私の目の前にそれが現れたからです」

「い、今? 今なのか?」

「はい! こんなに生きていて良かったと思う日が来るとは思いませんでした」

 にこやかにそう言い切ると、エリクは受け取った食事をどんどん口に運んでいった。早く食べる割に、一口一口を堪能して美味しさを深く噛み締めたような蕩けた顔を見せていた。

 やっぱり理解できない。
 理解できないことは、『エリクとはこういう人間なのだ』と丸々受け入れたほうが早いと、ガイは今までの人生で悟っていた。

 度胸と野心のある変わり者。
 それがエリクなのだと認識して、ガイも食事を進めていく。

 噛み合わない居心地の悪さを覚えたのはほんの少しの間だけ。

「ガイ様の手料理、最高です! 塩加減も焼き加減も絶妙で、むしろ塩のみの味付けが素材の味を引き出していて絶品です! こんなに美味しい焼き料理は初めてです」

 お世辞なのかもしれないが、それはもう美味しくてたまらない様子でエリクが褒め称えてくれた。

 自分が戦う以外でしたことで、ここまで喜んでくれたのは初めてかもしれない。

 エリクの料理への褒め殺しが、追っ手から逃げるための潜伏という状況にもかかわらず、腹も胸も満たすひとときにしてくれた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

罰ゲームでクラス一の陰キャに告白して付き合う話

あきら
BL
攻め 二階堂怜央 陽キャ 高校2年生 受け 加藤仁成 陰キャ 高校2年生 クラス一の陽キャがクラス一の陰キャに告白して、最初断られたけどなんやかんやでOKされてなんやかんやで付き合うようになる話です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...