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二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中

なぜ泥棒猫呼ばわり?

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 互いに頷き合い、馬を歩かせて国境を跨ぎ、サグニア王国に入る。
 そのまま大人しく下り道が続く森の中へ行こうとしたその時だった。

 一頭の馬が駆けてくる足音と、鋭く通った声が迫ってきた。

「ガイ・デオタード将軍! よくも平然と我が国に足を踏み入れることができたな!」

 ガイが振り返るよりも早く、エリクが前に出ていた。

 ギィィィンッ! と剣が交わる音が辺りに響く。
 近くにいては邪魔になる。すぐにガイは馬を走らせ、戦闘の渦中から距離を取りながら旋回して全貌を目にする。

 エリクが剣を受け止め、競り合っているのは長い赤髪をなびかせた中性的な顔の男だった。顔だけ見れば、高貴な令嬢と見間違われそうな美しさを称えている。しかし骨格や競り合う力強さは紛うことなき男性のものだ。

 ふとガイは彼の深緑の瞳と目が合ってしまう。
 途端に男は悪鬼のごとく目を吊り上げ、歯を剥き出しにして怒りを露わにした。

「ああっ、いつ見ても憎らしいその顔……っ! 今日こそは貴様の命を我が手で散らしてみせる!」

「そうはさせない! ガイ様に仇なす者は、たとえ王であろうが軍神であろうが、私が許さない!」

 襲撃者がなぜここまで自分に怒りを向けているのかも、エリクの猛火のごとくな気迫も、ガイには理解ができず首を傾げる。

 なぜ彼は俺を目の敵にする?
 それとエリク、王も軍神も尊きものだ。いくら例えでも言っていいものじゃない。

 心の中で呟いた後、ガイは愛用の剣を抜き、静かに構えた。

 ぽん、と踵で馬腹を蹴ると、戦う二人に向かって走らせる。

 ガイの切っ先が狙うのは――襲撃者の手綱。

 ブゥンッ。
 軽く振った剣の先は、彼が巧みに動かしていた手綱を断ってしまう。

「うわっ!」

 襲撃者が体勢を崩して落馬する。
 素早くガイはエリクに目配せした。

「行くぞエリク。着いて来い」

「は、はい!」

 馬の走りを止めず、ガイは森へ続く坂を下っていく。エリクも戦意を昂らせたまま、ともに馬の動きを揃えて続く。

 わずかにガイが背後を向けば、あっという間に襲撃者は見えなくなり、追い駆けてくる気配はなかった。

 代わりにガイへ向けた言葉が飛んでくる。

 ――「この泥棒猫がっ!!」

 ……なぜ泥棒猫?
 俺は彼から何かを奪ったというのか?

 あんなに見事な赤髪と綺麗な顔、一度見れば忘れることはないだろうとガイは思う。

 だから理解できない。
 あの男と会ったことはないはずのに、なぜ泥棒呼ばわりされたのか。ガイにとっては謎過ぎた。

「あんな見当違いの逆恨みをしている愚か者、始末しなくても良いのですか?」

「ここはもう隣国で、襲ってきた者もこの国の軍服を着ていた。下手に相手をして倒せば、両国の和平が崩れる。相手にすれば本国に迷惑がかかる。逃げるが正解だ」
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