12 / 58
二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中
思い出す隣国との戦と猛将
しおりを挟む◇ ◇ ◇
ガイたちが王城を出立して五日。
馬を走らせ、順調に母国レアランダ王国から隣のサグニア王国の境界に辿り着く。
国が切り替わる山中の街道の近くには、国境警備の砦がそれぞれ建っていた。
つい五年ほど前まで、この二国は戦争をしていた。
何度も激戦を繰り広げ、ぶつかり続けて、ようやく双方の落とし所を見つけて停戦協定を取り交わすことができた。
今では何事もなく国を行き来することができ、人の交流も貿易も活性化している。
馬を歩かせながらガイは砦を見上げ、静かな様子に目を細める。
(平和になったものだ。あの激戦からもう五年も経ったとはな)
未だにあの戦いの日々は、ガイの中で鮮やかなままだった。
多くの血を流してきた。
そんな中でも、終戦までずっと剣を交え続けてきた敵将もいた。
ガイが思わず懐かしんでいると、
「どうかしましたか、ガイ様?」
隣のエリクが馬上から声をかけてくる。
我に返り、ガイは馬を近づけ、エリクに答えた。
「サグニア王国との戦を思い出していたところだ。この砦には世話になった」
「私はまだ入隊前でしたが、激戦だったことは聞き及んでいます。ガイ様の獅子奮迅の戦いぶりは、城下町でいつも噂になっていました」
心なしかエリクの頬が紅潮し、目も輝き、子どもが憧れを語るような顔に見えてしまう。
悪い気はしないが気恥ずかしさを覚え、ガイは辺りを見渡して気を紛らわせる。
「あの頃は目の前の強敵をどう迎えるかで手一杯だった。サグニア王国には、どんな策も力で押し返してしまう猛将がいたからな」
口に出すとガイの脳裏に激戦の記憶が鮮やかによみがえっていく。
彼の猛将はとにかく一騎打ちを好んだ。
兵を引き連れ、上手くこちらの軍を四散させた時など、普通ならば別隊に将である自分を追い詰めて討たせるはずなのに――。
『ガイ・デオタード! いざ尋常に勝負!』
それはもう嬉々として鷹のような鋭い目を輝かせ、猛将は真っ正面から挑んできた。彼の一撃を剣で受け止めた日は、しばらく両腕の痺れが取れなかったものだ。
猛将ゲイン・カレロ。
大柄で筋骨隆々とした大熊のような男。
しかし常に楽しげに戦いを挑み続けてきたせいか、憎めない男でもあった――。
「――さま……ガイ様!」
エリクに呼ばれてガイは我に返る。
もう戦は終わり、両国の間に和平は結ばれた。
彼の猛将と剣を交えることはもうないのだと少し寂しく思った後、ガイはエリクを見た。
「なんだ?」
「実は先ほど、隣国の砦の上に光るものが……望遠鏡でこちらを見ていたようです」
スッ、と表情を引き締めると、エリクが馬を寄せてガイに囁く。
「もしかするとガイ様だと気づかれたかもしれません。何か仕掛けてくる恐れもあります。ここを早く離れましょう」
「うむ。和平を結んだ以上、襲われることはないと思うが……長くここに居れば、いらぬ誤解を生んでしまいそうだな」
156
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
【R18】元騎士団長(32)、弟子として育てていた第三王子(20)をヤンデレにしてしまう
夏琳トウ(明石唯加)
BL
かつて第三王子ヴィクトールの剣術の師をしていたラードルフはヴィクトールの20歳を祝うパーティーに招待された。
訳あって王都から足を遠ざけていたラードルフは知らない。
この日がヴィクトールの花嫁を選ぶ日であるということを。ヴィクトールが自身に重すぎる恋慕を向けているということを――。
ヤンデレ王子(20)×訳あり元騎士団長(32)の歪んだ師弟ラブ。
■掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
僕の家族の執着がすごい件について【休みの日更新⠀】
矢崎 恵美
BL
第六皇子としてエストレーヤ帝国に生まれたセーラスは皇族としての証を受け継がれずに生まれてきた。
彼はいらない子として散々な虐待を受けてきた
彼がある日突如前世を思い出した
そんな彼は10歳の誕生日にお披露目パーティーの際復讐すると心に決めていた
だがしかし人生そんな上手くは行かず何故か彼の家族がある日を境に彼に執着し始めてしまい?!
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
愛され奴隷の幸福論
東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。
伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──……
◇◇◇◇◇
*本編完結済みです*
筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり)
無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。
体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる