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二章 嫌われ将軍、元敵国でも絶賛嫌われ中
思い出す隣国との戦と猛将
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ガイたちが王城を出立して五日。
馬を走らせ、順調に母国レアランダ王国から隣のサグニア王国の境界に辿り着く。
国が切り替わる山中の街道の近くには、国境警備の砦がそれぞれ建っていた。
つい五年ほど前まで、この二国は戦争をしていた。
何度も激戦を繰り広げ、ぶつかり続けて、ようやく双方の落とし所を見つけて停戦協定を取り交わすことができた。
今では何事もなく国を行き来することができ、人の交流も貿易も活性化している。
馬を歩かせながらガイは砦を見上げ、静かな様子に目を細める。
(平和になったものだ。あの激戦からもう五年も経ったとはな)
未だにあの戦いの日々は、ガイの中で鮮やかなままだった。
多くの血を流してきた。
そんな中でも、終戦までずっと剣を交え続けてきた敵将もいた。
ガイが思わず懐かしんでいると、
「どうかしましたか、ガイ様?」
隣のエリクが馬上から声をかけてくる。
我に返り、ガイは馬を近づけ、エリクに答えた。
「サグニア王国との戦を思い出していたところだ。この砦には世話になった」
「私はまだ入隊前でしたが、激戦だったことは聞き及んでいます。ガイ様の獅子奮迅の戦いぶりは、城下町でいつも噂になっていました」
心なしかエリクの頬が紅潮し、目も輝き、子どもが憧れを語るような顔に見えてしまう。
悪い気はしないが気恥ずかしさを覚え、ガイは辺りを見渡して気を紛らわせる。
「あの頃は目の前の強敵をどう迎えるかで手一杯だった。サグニア王国には、どんな策も力で押し返してしまう猛将がいたからな」
口に出すとガイの脳裏に激戦の記憶が鮮やかによみがえっていく。
彼の猛将はとにかく一騎打ちを好んだ。
兵を引き連れ、上手くこちらの軍を四散させた時など、普通ならば別隊に将である自分を追い詰めて討たせるはずなのに――。
『ガイ・デオタード! いざ尋常に勝負!』
それはもう嬉々として鷹のような鋭い目を輝かせ、猛将は真っ正面から挑んできた。彼の一撃を剣で受け止めた日は、しばらく両腕の痺れが取れなかったものだ。
猛将ゲイン・カレロ。
大柄で筋骨隆々とした大熊のような男。
しかし常に楽しげに戦いを挑み続けてきたせいか、憎めない男でもあった――。
「――さま……ガイ様!」
エリクに呼ばれてガイは我に返る。
もう戦は終わり、両国の間に和平は結ばれた。
彼の猛将と剣を交えることはもうないのだと少し寂しく思った後、ガイはエリクを見た。
「なんだ?」
「実は先ほど、隣国の砦の上に光るものが……望遠鏡でこちらを見ていたようです」
スッ、と表情を引き締めると、エリクが馬を寄せてガイに囁く。
「もしかするとガイ様だと気づかれたかもしれません。何か仕掛けてくる恐れもあります。ここを早く離れましょう」
「うむ。和平を結んだ以上、襲われることはないと思うが……長くここに居れば、いらぬ誤解を生んでしまいそうだな」
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