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幕間一 副将はすべてお見通し(副将ウーゴ視点)

自由になってもらうために

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「――聞けばガイ様が子どもの頃から、先王陛下に気に入られていたとのこと。年を重ねるごとにイヴァン陛下のガイ様を見る目が凍てついていきましたからね」

 今までを思い出しながらウーゴが先王と現王の話をすると、童顔の部隊長ミシェルからため息が聞こえてきた。

「そんな頃から罪づくりだったんですね、ガイ様」

 思わずウーゴは何度も大きく頷いてしまう。

「ええ、本当に。下手すれば先王陛下のお手付きになって、側室になっていたかもしれません」

 危ういと感じたことは幾度もあった。

 ただでさえ先王はガイに近づきたがり、話をする際も肩に手を置いたり、手を繋いだり、酷い時は腰に手を回す時さえあった。

 どう考えても先王にその気はあった。

 無類の強さを誇るガイだが、同時に忠誠心も厚く、王の命に背くことなど考えもしない男だということをウーゴはよく知っていた。

 先王が手を出せば、望まぬことであってもガイは拒絶しない。
 だからウーゴは常に目を光らせ、ガイと先王を二人きりにさせまいと立ち回ってきた。

 可能な限りガイに付き従い、それが難しい時はガイを好ましく思っている同志に見張りを頼み、間違いが起きる隙を与えまいとしてきた。

 おかげで先王が亡くなるまで、ガイの貞操を守り切ることができたが――。

「先王陛下の行き過ぎた寵愛の後は、新王陛下の冷遇……ますますガイ様が生き辛くなられるのは、本当に忍びないですよ」

 新王イヴァンは玉座に就いてすぐ、ガイに過酷な任ばかりを押し付け、心身を追い詰めた。

 そして極めつけが今回の王命。
 集めた情報によると、遠く離れた異国の邪竜討伐を命じるらしい。

 本来はする必要のないこと。しかも人の力では敵わぬはずの邪竜討伐の命。あまりに理不尽な内容に、ウーゴは胸を掻きむしりたくてたまらなかった。

 不意に廊下から忙しなく駆けてくる足音が聞こえてくる。

 バンッ、と慌ただしく執務室の扉を開けたのは、広間に向かわせていた部下だった。

「ウーゴ様! ガイ様に邪竜討伐の王命が下りました! しかも討伐隊を組むことは許されず、ガイ様のみで向かうようにと……」

 部下の声が次第に嗚咽が混じり、途中で言葉が途絶えてしまう。

 ざわつく部隊長たちの中、ウーゴは目を閉じ、自分の胸が荒ぶっていくのを感じ取る。

(ああ、やはりか……イヴァン陛下はそこまでガイ様を恨んでいらっしゃったのか。ガイ様はただひたすら王に仕え、国のために戦われてきたというのに!)

 あまりの不遇に今すぐ剣を抜き、現王を討ちたい衝動に駆られてしまう。

 しかし、それはガイの望みではない。
 行動に移せば間違いなくガイは深く悲しみながら、ウーゴに剣を向けて斬り捨てた上で邪竜討伐に向かうのが目に見えている。

 ガイにそんな思いはさせたくない。
 そしてもし邪竜討伐に成功して帰還しても、またイヴァン王に難癖をつけられて冷遇されるだけ。

「……もういいでしょう……ガイ様はもう自由になるべきです」

 思わずウーゴは心の声を零してしまう。
 集まった部隊長たちが静まり、一斉にウーゴを見た。

「ウーゴ様、それではあの計画を?」

 顔を覗き込んで伺ってきたテオに、ウーゴは頷く。

「やりましょう。皆、ガイ様を想う気持ちに偽りがなければ、どうか私に合わせて下さい」

 それぞれを見回しながら告げると、部隊長たちはいずれも唇を固く結びながらも頷いてくれる。

 先王が亡くなった頃から、ガイを想う同志たち――ウーゴが中心となって作り上げたガイ親衛隊の者たちに伝えてきたこと。

 同志たちはもちろん動揺した。しかし同時に理解もしてくれた。
 心の準備は整っていた。

 ギィィ、と扉が開き、ガイが執務室に入ってくる。

 そして振り向いたウーゴは胸の内を重くしながら、ガイの問いかけに答えた。


「国にとっては素晴らしい将軍でしたが、私たちにとっては悪夢のような上司でした。もう二度と顔も見たくありませんが、邪竜討伐の吉報を心よりお待ちしています」
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