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一章 嫌われ将軍、国を追い出される
どうやらエリクはのぼせやすい体質らしい
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やけに頑固なエリクとしばらく言い合いになり、平行線を辿ってしまう。
何を言っても折れない様子に、ガイは思わずため息をこぼした。
「……その様子だと、無理にベッドで寝させても気が立って休めなさそうだな」
「分かって頂けましたなら、どうかベッドをお使い下さい」
「ああ。一緒に使うぞ」
ガイの一言にエリクが固まる。
石化の魔法でもかかったのかと思いたくなるほど、瞬きも息遣いもすべてを止めた後。ぎこちない動きでエリクはガイを見上げた。
「……私と、一緒に寝られると?」
「どっちも床で寝ない道はそれしかないだろ。寝相は悪くないほうだと思うが――エリク?」
エリクの目は開いているが、瞳がまったく動いていない。
まさか気絶しているのか? とガイはエリクの目の前で手をヒラヒラと振ってみる。
手が何往復かした頃、エリクがハッと我に返った。
「よ、よろしいのですか?」
「俺が言い出したんだ、良いに決まっている。エリクが嫌ならば俺は床で寝るが……」
「ありがとうございます! 喜んで!」
快諾してくれて良かったが、俺相手に『喜んで』はどうなんだ?
エリクの反応に首を傾げるしかなかったが、これで話は決まったから良かったとガイは思うことにした。
その夜、一つのベッドに二人は並んで寝た。
棒のように頭の頂から足の爪先までピンと硬直したエリクが気になったが、眠気はすぐに訪れ、ガイは素直に身を委ねる。
意識が途切れる間際、かすかにエリクの呟きが聞こえたような気がした。
「ああ、こんな日が来るなんて――」
ため息混じりの、小さく揺れた声。
英雄という肩書きがあるのに国を追い出された中年の男と一緒に寝るなんて、どう考えても良いものとは思えない。
きっとこれはエリクの嘆きの呟きだ、とガイは思う。
心から申し訳ないと感じながら、ガイの意識は眠りに落ちていった。
――翌朝。
ガイが目覚めると、二つのしなやかで引き締まった腕に体が捕らわれていた。
視界に広がるのは見た目よりもたくましい胸。
寝たままエリクに抱き締められていることに気づき、ガイは固まった。
(こ、これはなんだ? エリクは俺を布団と勘違いしているのか?)
息をするごとにエリクの熱と、爽やかさと甘さが混じった体の匂いがガイの鼻に広がる。妙に背筋がむず痒い。恥ずかしいことこの上なくて、思わずその胸を叩いた。
「起きてくれエリク。早く目を覚まして俺から離れないと、君が不快な思いを募らせることになるぞ」
寝起きが悪いのか、エリクはなかなか起きてくれない。
これでは埒が明かないと、ガイがエリクの肩を掴んで大きく揺らすと、ようやく小さな唸り声が聞こえてきた。
「んん……おはようございま、す……」
「やっと起きたか。ほら、早く俺から離れるんだ。恥ずかしくてたまらん」
「離れ、る……?」
まぶたが小刻みに震えた後、わずかにエリクの目が開く。
ガイと視線が合った瞬間。
カッと目が見開かれ――ブパァァァァッ、とエリクから大量の鼻血が吹き出した。
「うおっ、だ、大丈夫か!? 取り敢えず鼻を押さえろ。手頃なタオルを持ってくる」
「す、すみません……寝起きには、刺激が強すぎました……」
……何が刺激になったんだ?
やはり年が離れているせいか、度々エリクの言っていることが分からなくて、ガイは眉間に皺を刻む。
取り敢えず、どうやらエリクはのぼせやすい体質らしい。
これからの道中、その点は気遣っていかねば。
そう考えを固めながら、ガイは衣装棚から宿のタオルを手にしてエリクの介抱に向かった。
何を言っても折れない様子に、ガイは思わずため息をこぼした。
「……その様子だと、無理にベッドで寝させても気が立って休めなさそうだな」
「分かって頂けましたなら、どうかベッドをお使い下さい」
「ああ。一緒に使うぞ」
ガイの一言にエリクが固まる。
石化の魔法でもかかったのかと思いたくなるほど、瞬きも息遣いもすべてを止めた後。ぎこちない動きでエリクはガイを見上げた。
「……私と、一緒に寝られると?」
「どっちも床で寝ない道はそれしかないだろ。寝相は悪くないほうだと思うが――エリク?」
エリクの目は開いているが、瞳がまったく動いていない。
まさか気絶しているのか? とガイはエリクの目の前で手をヒラヒラと振ってみる。
手が何往復かした頃、エリクがハッと我に返った。
「よ、よろしいのですか?」
「俺が言い出したんだ、良いに決まっている。エリクが嫌ならば俺は床で寝るが……」
「ありがとうございます! 喜んで!」
快諾してくれて良かったが、俺相手に『喜んで』はどうなんだ?
エリクの反応に首を傾げるしかなかったが、これで話は決まったから良かったとガイは思うことにした。
その夜、一つのベッドに二人は並んで寝た。
棒のように頭の頂から足の爪先までピンと硬直したエリクが気になったが、眠気はすぐに訪れ、ガイは素直に身を委ねる。
意識が途切れる間際、かすかにエリクの呟きが聞こえたような気がした。
「ああ、こんな日が来るなんて――」
ため息混じりの、小さく揺れた声。
英雄という肩書きがあるのに国を追い出された中年の男と一緒に寝るなんて、どう考えても良いものとは思えない。
きっとこれはエリクの嘆きの呟きだ、とガイは思う。
心から申し訳ないと感じながら、ガイの意識は眠りに落ちていった。
――翌朝。
ガイが目覚めると、二つのしなやかで引き締まった腕に体が捕らわれていた。
視界に広がるのは見た目よりもたくましい胸。
寝たままエリクに抱き締められていることに気づき、ガイは固まった。
(こ、これはなんだ? エリクは俺を布団と勘違いしているのか?)
息をするごとにエリクの熱と、爽やかさと甘さが混じった体の匂いがガイの鼻に広がる。妙に背筋がむず痒い。恥ずかしいことこの上なくて、思わずその胸を叩いた。
「起きてくれエリク。早く目を覚まして俺から離れないと、君が不快な思いを募らせることになるぞ」
寝起きが悪いのか、エリクはなかなか起きてくれない。
これでは埒が明かないと、ガイがエリクの肩を掴んで大きく揺らすと、ようやく小さな唸り声が聞こえてきた。
「んん……おはようございま、す……」
「やっと起きたか。ほら、早く俺から離れるんだ。恥ずかしくてたまらん」
「離れ、る……?」
まぶたが小刻みに震えた後、わずかにエリクの目が開く。
ガイと視線が合った瞬間。
カッと目が見開かれ――ブパァァァァッ、とエリクから大量の鼻血が吹き出した。
「うおっ、だ、大丈夫か!? 取り敢えず鼻を押さえろ。手頃なタオルを持ってくる」
「す、すみません……寝起きには、刺激が強すぎました……」
……何が刺激になったんだ?
やはり年が離れているせいか、度々エリクの言っていることが分からなくて、ガイは眉間に皺を刻む。
取り敢えず、どうやらエリクはのぼせやすい体質らしい。
これからの道中、その点は気遣っていかねば。
そう考えを固めながら、ガイは衣装棚から宿のタオルを手にしてエリクの介抱に向かった。
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