7 / 15
一章 嫌われ将軍、国を追い出される
床に寝るのが駄目なら
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
のぼせたエリクが目を覚ましたのは、部屋のベッドに寝かせて半刻経った頃だった。
「あ……私は、いったい……」
「気がついたか、エリク」
エリクの額を冷やしていた濡れタオルを変えようとしていたガイは、まだぼんやりしている彼の目を覗き込む。
「風呂でのぼせて気を失ったんだ。気分はどうだ? 起き上がれそうか?」
「は、はい……大丈夫です」
ゆっくりと起き上がったエリクに、ガイは水入りのコップを渡す。
鈍い動きながら水を一気に飲み干した後、エリクが自分の状態――まだ裸のままで、下半身にタオルがかけられている――に気づき、青ざめた。
「ご迷惑をかけた上に、汚らわしいものを見せてしまうなんて……っ! ガイ様、申し訳ありません!」
「気にしなくていい。目の前で問題があれば助けるのは当然だ。もう大丈夫そうなら良かった」
気遣ってガイが下半身のアレには触れずに話すが、エリクは額を押さえて大きく息をついて落ち込み続ける。
「本当に一生の不覚です……鍵でも取り付けて封印するか、いっそ切り落としてしまおうか……」
「やめるんだ。若い時にはよくあることだ。今までそんな事例を山ほど見てきた」
「……そんなに見てきたんですか?」
「ああ。戦や訓練が終わった後に、公衆浴場へ行って兵士たちと汗を流す機会がよくあったからな。おそらく戦いの興奮が冷めていなかったせいだろう」
だからエリクの件もおかしなことではないし、恥じることでもないから気にするな。と心の底から思いながら、ガイは思い出を語る。
なぜかエリクの顔色がさあっと青ざめ、うつむいて頭を抱えてしまう。
安堵するどころか絶望しているようにも見えたが、エリクが顔を上げた時には何かを決意したような凛々しい表情を浮かべていた。
「二度とこのようなことが起きないよう、己を抑えてみせます。道中、必ずガイ様をお守りしますから、これからも一緒に入浴させて下さい」
「守る? というのはよく分からんが、エリクがそれでいいなら俺は別に――」
「ありがとうございます!」
妙に元気になったエリクに首を傾げたくなったが、本人がそれでいいなら……とガイは受け流す。
年齢が離れていれば、考えも見える景色も思うところも違う。
よく分からないことを口にしているのは、そのせいだと思うことにした。
ガイは軽く背伸びをした後、エリクから離れて壁際へ向かう。
「そろそろ寝るぞ。明日は山を超えることになる。しっかり休んでくれ」
「はい。今ベッドを空けますから、ガイ様はこちらにどうぞ」
エリクの言葉に、思わずガイの眉間に皺が寄っていく。
「何を言っているんだ? のぼせて倒れたんだ。ベッドを使うのは君のほうだ」
「ガイ様を床に寝させるだなんて! 私はもう大丈夫ですから、ガイ様がお使い下さい」
「俺は一ヶ月連続で野宿して、木に背を預けながら寝てたこともある。床で横になれるだけでもありがたい。だから気にしなくていい」
「そんな苦労、もう一生やらないで下さい! この国でたくさん苦労されてきたのですから、これからの苦労は若輩者の私が代わりに背負います」
「気持ちは嬉しいが、さっきエリクは倒れただろ。無理はするな。俺にそんな気遣いはいらない――」
「無理などしていません! 今すぐ空けますから――」
のぼせたエリクが目を覚ましたのは、部屋のベッドに寝かせて半刻経った頃だった。
「あ……私は、いったい……」
「気がついたか、エリク」
エリクの額を冷やしていた濡れタオルを変えようとしていたガイは、まだぼんやりしている彼の目を覗き込む。
「風呂でのぼせて気を失ったんだ。気分はどうだ? 起き上がれそうか?」
「は、はい……大丈夫です」
ゆっくりと起き上がったエリクに、ガイは水入りのコップを渡す。
鈍い動きながら水を一気に飲み干した後、エリクが自分の状態――まだ裸のままで、下半身にタオルがかけられている――に気づき、青ざめた。
「ご迷惑をかけた上に、汚らわしいものを見せてしまうなんて……っ! ガイ様、申し訳ありません!」
「気にしなくていい。目の前で問題があれば助けるのは当然だ。もう大丈夫そうなら良かった」
気遣ってガイが下半身のアレには触れずに話すが、エリクは額を押さえて大きく息をついて落ち込み続ける。
「本当に一生の不覚です……鍵でも取り付けて封印するか、いっそ切り落としてしまおうか……」
「やめるんだ。若い時にはよくあることだ。今までそんな事例を山ほど見てきた」
「……そんなに見てきたんですか?」
「ああ。戦や訓練が終わった後に、公衆浴場へ行って兵士たちと汗を流す機会がよくあったからな。おそらく戦いの興奮が冷めていなかったせいだろう」
だからエリクの件もおかしなことではないし、恥じることでもないから気にするな。と心の底から思いながら、ガイは思い出を語る。
なぜかエリクの顔色がさあっと青ざめ、うつむいて頭を抱えてしまう。
安堵するどころか絶望しているようにも見えたが、エリクが顔を上げた時には何かを決意したような凛々しい表情を浮かべていた。
「二度とこのようなことが起きないよう、己を抑えてみせます。道中、必ずガイ様をお守りしますから、これからも一緒に入浴させて下さい」
「守る? というのはよく分からんが、エリクがそれでいいなら俺は別に――」
「ありがとうございます!」
妙に元気になったエリクに首を傾げたくなったが、本人がそれでいいなら……とガイは受け流す。
年齢が離れていれば、考えも見える景色も思うところも違う。
よく分からないことを口にしているのは、そのせいだと思うことにした。
ガイは軽く背伸びをした後、エリクから離れて壁際へ向かう。
「そろそろ寝るぞ。明日は山を超えることになる。しっかり休んでくれ」
「はい。今ベッドを空けますから、ガイ様はこちらにどうぞ」
エリクの言葉に、思わずガイの眉間に皺が寄っていく。
「何を言っているんだ? のぼせて倒れたんだ。ベッドを使うのは君のほうだ」
「ガイ様を床に寝させるだなんて! 私はもう大丈夫ですから、ガイ様がお使い下さい」
「俺は一ヶ月連続で野宿して、木に背を預けながら寝てたこともある。床で横になれるだけでもありがたい。だから気にしなくていい」
「そんな苦労、もう一生やらないで下さい! この国でたくさん苦労されてきたのですから、これからの苦労は若輩者の私が代わりに背負います」
「気持ちは嬉しいが、さっきエリクは倒れただろ。無理はするな。俺にそんな気遣いはいらない――」
「無理などしていません! 今すぐ空けますから――」
44
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~
天岸 あおい
BL
ビッチ勇者がワザと魔物に捕まってエッチされたがるので、頑張って戦士が庇って大変な目にあうエロコメディ。
※ビッチ勇者×ガチムチ戦士。同じ村に住んでいた幼馴染コンビ。
※魔物×戦士の描写も多め。戦士がエロい災難に遭いまくるお話。
※エッチな描写ありの話は話タイトルの前に印が入ります。勇者×戦士『○』。魔物×戦士『▼』。また勇者視点の時は『※』が入ります。
Sub侯爵の愛しのDom様
東雲
BL
「愛しい人、どうか僕無しでは生きていけない生き物になって下さい」
可愛い系美形(18)×男前筋肉(32)
年齢差×体格差×身分差の異世界Dom/Subユニバースです。
甘い言葉と優しい躾で受けちゃんを骨の髄まで溶かすような甘々調教をする年下攻め×恋を知らない逞しい見た目の筋肉漢だけど攻めくんの前ではぐずぐず乙女になっちゃう年上受け。
尽くして愛していじめて自分に依存させたいSub大好きDomと、恋愛経験0で何をされても恥ずかしいのにDomが大好きでなんでも許しちゃうSubのお話です。
話の始まりはやや不穏・不憫ですが、ラストは甘々ハッピーエンドの予定です!山あり谷ありにはならない…はず(たぶん)
私の『好き』をしこたま詰め込んだ東雲ハッピーセットです!
愛され奴隷の幸福論
東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。
伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──……
◇◇◇◇◇
*本編完結済みです*
筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり)
無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。
体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
主神の祝福
かすがみずほ
BL
褐色の肌と琥珀色の瞳を持つ有能な兵士ヴィクトルは、王都を警備する神殿騎士団の一員だった。
神々に感謝を捧げる春祭りの日、美しい白髪の青年に出会ってから、彼の運命は一変し――。
ドSな触手男(一応、主神)に取り憑かれた強気な美青年の、悲喜こもごもの物語。
美麗な表紙は沢内サチヨ様に描いていただきました!!
https://www.pixiv.net/users/131210
https://mobile.twitter.com/sachiyo_happy
誠に有難うございました♡♡
本作は拙作「聖騎士の盾」シリーズの派生作品ですが、単品でも読めなくはないかと思います。
(「神々の祭日」で当て馬攻だったヴィクトルが受になっています)
脇カプの話が余りに長くなってしまったので申し訳ないのもあり、本編から独立しました。
冒頭に本編カプのラブシーンあり。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる