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一章 嫌われ将軍、国を追い出される
床に寝るのが駄目なら
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◇ ◇ ◇
のぼせたエリクが目を覚ましたのは、部屋のベッドに寝かせて半刻経った頃だった。
「あ……私は、いったい……」
「気がついたか、エリク」
エリクの額を冷やしていた濡れタオルを変えようとしていたガイは、まだぼんやりしている彼の目を覗き込む。
「風呂でのぼせて気を失ったんだ。気分はどうだ? 起き上がれそうか?」
「は、はい……大丈夫です」
ゆっくりと起き上がったエリクに、ガイは水入りのコップを渡す。
鈍い動きながら水を一気に飲み干した後、エリクが自分の状態――まだ裸のままで、下半身にタオルがかけられている――に気づき、青ざめた。
「ご迷惑をかけた上に、汚らわしいものを見せてしまうなんて……っ! ガイ様、申し訳ありません!」
「気にしなくていい。目の前で問題があれば助けるのは当然だ。もう大丈夫そうなら良かった」
気遣ってガイが下半身のアレには触れずに話すが、エリクは額を押さえて大きく息をついて落ち込み続ける。
「本当に一生の不覚です……鍵でも取り付けて封印するか、いっそ切り落としてしまおうか……」
「やめるんだ。若い時にはよくあることだ。今までそんな事例を山ほど見てきた」
「……そんなに見てきたんですか?」
「ああ。戦や訓練が終わった後に、公衆浴場へ行って兵士たちと汗を流す機会がよくあったからな。おそらく戦いの興奮が冷めていなかったせいだろう」
だからエリクの件もおかしなことではないし、恥じることでもないから気にするな。と心の底から思いながら、ガイは思い出を語る。
なぜかエリクの顔色がさあっと青ざめ、うつむいて頭を抱えてしまう。
安堵するどころか絶望しているようにも見えたが、エリクが顔を上げた時には何かを決意したような凛々しい表情を浮かべていた。
「二度とこのようなことが起きないよう、己を抑えてみせます。道中、必ずガイ様をお守りしますから、これからも一緒に入浴させて下さい」
「守る? というのはよく分からんが、エリクがそれでいいなら俺は別に――」
「ありがとうございます!」
妙に元気になったエリクに首を傾げたくなったが、本人がそれでいいなら……とガイは受け流す。
年齢が離れていれば、考えも見える景色も思うところも違う。
よく分からないことを口にしているのは、そのせいだと思うことにした。
ガイは軽く背伸びをした後、エリクから離れて壁際へ向かう。
「そろそろ寝るぞ。明日は山を超えることになる。しっかり休んでくれ」
「はい。今ベッドを空けますから、ガイ様はこちらにどうぞ」
エリクの言葉に、思わずガイの眉間に皺が寄っていく。
「何を言っているんだ? のぼせて倒れたんだ。ベッドを使うのは君のほうだ」
「ガイ様を床に寝させるだなんて! 私はもう大丈夫ですから、ガイ様がお使い下さい」
「俺は一ヶ月連続で野宿して、木に背を預けながら寝てたこともある。床で横になれるだけでもありがたい。だから気にしなくていい」
「そんな苦労、もう一生やらないで下さい! この国でたくさん苦労されてきたのですから、これからの苦労は若輩者の私が代わりに背負います」
「気持ちは嬉しいが、さっきエリクは倒れただろ。無理はするな。俺にそんな気遣いはいらない――」
「無理などしていません! 今すぐ空けますから――」
のぼせたエリクが目を覚ましたのは、部屋のベッドに寝かせて半刻経った頃だった。
「あ……私は、いったい……」
「気がついたか、エリク」
エリクの額を冷やしていた濡れタオルを変えようとしていたガイは、まだぼんやりしている彼の目を覗き込む。
「風呂でのぼせて気を失ったんだ。気分はどうだ? 起き上がれそうか?」
「は、はい……大丈夫です」
ゆっくりと起き上がったエリクに、ガイは水入りのコップを渡す。
鈍い動きながら水を一気に飲み干した後、エリクが自分の状態――まだ裸のままで、下半身にタオルがかけられている――に気づき、青ざめた。
「ご迷惑をかけた上に、汚らわしいものを見せてしまうなんて……っ! ガイ様、申し訳ありません!」
「気にしなくていい。目の前で問題があれば助けるのは当然だ。もう大丈夫そうなら良かった」
気遣ってガイが下半身のアレには触れずに話すが、エリクは額を押さえて大きく息をついて落ち込み続ける。
「本当に一生の不覚です……鍵でも取り付けて封印するか、いっそ切り落としてしまおうか……」
「やめるんだ。若い時にはよくあることだ。今までそんな事例を山ほど見てきた」
「……そんなに見てきたんですか?」
「ああ。戦や訓練が終わった後に、公衆浴場へ行って兵士たちと汗を流す機会がよくあったからな。おそらく戦いの興奮が冷めていなかったせいだろう」
だからエリクの件もおかしなことではないし、恥じることでもないから気にするな。と心の底から思いながら、ガイは思い出を語る。
なぜかエリクの顔色がさあっと青ざめ、うつむいて頭を抱えてしまう。
安堵するどころか絶望しているようにも見えたが、エリクが顔を上げた時には何かを決意したような凛々しい表情を浮かべていた。
「二度とこのようなことが起きないよう、己を抑えてみせます。道中、必ずガイ様をお守りしますから、これからも一緒に入浴させて下さい」
「守る? というのはよく分からんが、エリクがそれでいいなら俺は別に――」
「ありがとうございます!」
妙に元気になったエリクに首を傾げたくなったが、本人がそれでいいなら……とガイは受け流す。
年齢が離れていれば、考えも見える景色も思うところも違う。
よく分からないことを口にしているのは、そのせいだと思うことにした。
ガイは軽く背伸びをした後、エリクから離れて壁際へ向かう。
「そろそろ寝るぞ。明日は山を超えることになる。しっかり休んでくれ」
「はい。今ベッドを空けますから、ガイ様はこちらにどうぞ」
エリクの言葉に、思わずガイの眉間に皺が寄っていく。
「何を言っているんだ? のぼせて倒れたんだ。ベッドを使うのは君のほうだ」
「ガイ様を床に寝させるだなんて! 私はもう大丈夫ですから、ガイ様がお使い下さい」
「俺は一ヶ月連続で野宿して、木に背を預けながら寝てたこともある。床で横になれるだけでもありがたい。だから気にしなくていい」
「そんな苦労、もう一生やらないで下さい! この国でたくさん苦労されてきたのですから、これからの苦労は若輩者の私が代わりに背負います」
「気持ちは嬉しいが、さっきエリクは倒れただろ。無理はするな。俺にそんな気遣いはいらない――」
「無理などしていません! 今すぐ空けますから――」
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