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六章 裏切りと真実

垣間見えた真実

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 剣で応戦しても間に合わない。
 レオニードはみなもの手首を掴み、動きを止める。
 それでも刺そうとする気持ちは変わらず、あらん限りの力で押してきた。

 いきみながら、みなもが顔を上げる。
 挑むような眼差しを送りながら、彼女の口が動いた。

『――――』

 あまりに小さく、自分だけにしか聞こえない声。

 レオ二ードの目が大きく見開いた。

(……そうだったのか。みなも、君は――)

 詳しい事情は分からないが、みなもの狙いが伝わってくる。
 より困惑して動揺する胸の内に反して、レオニードの頭は冷静に自分のすべきことを探っていく。

 とにかく今は逃げるしかない。
 レオニードは剣の柄で、素早くみなもの腹部を突く。

「かはっ……!」

 彼女の息遣いが停止し、その場に膝をつけてうずくまる。

 この隙を逃さず、レオニードはみなもから離れ、襲い来る剣を弾き返しながら浪司の元へ向かった。
 四人を相手にして疲れを見せているが、振るう剣は鈍っていない。むしろ浪司のほうが押しているように見えた。

 こちらの動きに気づいた一人が斬りかかってくる。
 すぐに距離を縮められるが、動じずに剣を構えなおす。

 相手がみなもでなければ、遠慮なく戦える。
 レオニードは迫る刃に臆することなく、懐へ飛び込んだ。

 振り下ろされた剣撃を受け流し、無防備になった敵の胸を斬りつける。
 敵がよろけたところで、浪司と交戦する三人に向けて蹴り倒した。

 敵が「うわっ」と体勢を崩して重なり合う。
 うまく身を翻して巻き添えを避けた浪司は、レオニードに目配せした。

「今ここで粘っても、みなもを助けられん。悔しいだろうが逃げるぞ」

 後ろ髪を引かれる思いだったが、レオニードは無言で頷く。
 そして浪司に並ぶと、新たに襲い来る敵をなぎ払いながらその場を離れた。



「動けるヤツはさっさと侵入者を追え! アイツらを確実に始末しろ」

 辺りを見渡しながらナウムが声高に叫ぶと、倒れていた部下たちが起き上がり、今しがた二人が去ったほうへ向かおうとする。が、

「ナウム様、追う必要はありません」

 短剣を鞘に収めながら、みなもは薄く笑い、妖しい色香をふわりと漂わせた。

「二人ともすでに私の剣で毒を受けています。放っておけば死にますよ」

 ぞくり、とナウムの背筋に寒気が走る。
 遠目で見ていたが、確かにみなもは最初の段階で二人を斬りつけていた。
 いくら暗示にかかっているとはいえ、自分のために親しかった者たちを手にかける――その姿がたまらなく美しく、完全に彼女を手にしているという実感を掻き立てる。

「流石だな。やっぱりお前は最高の相方だな」

 みなもの背後へナウムが近づくと、彼女はゆっくりと振り向いて、こちらの胸へもたれかかってきた。
 優しく肩を抱いてみせると、みなもは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 ふと脳裏に昔の記憶が浮かび上がる。
 せがまれるままに頭を撫でてあげた時に、よく見せていた顔だ。
 何も知らない、純真で幸せそうな子供の頃の――。

 不意にナウムの胸が痛み、肩を抱く手に力が入った。

「ナウム様、どうされましたか?」

 みなもが顔を上げて、間近にこちらを見つめてくる。
 答えようとしてナウムは言葉を止めた。

 昔を思い出してしまうと、どうしても罪悪感がこみ上げてくる。
 だが、強引に意思を奪い続ける限り、どんな謝罪をしても彼女には届かない。

 意味のないことを口にしても虚しくなるだけだ。
 ナウムは「何でもねぇよ」と小首を振ると、まだ室内に残っている部下たちを見回した。

「念のためだ、今晩は屋敷の警護に徹してくれ。二人の遺体は夜が明けてから探しに行けばいい」

 疎らに「分かりました」と返事をして、部下たちが移動を始める。
 彼らの動きを確かめてから、ナウムはみなもに視線を戻す。

 と、彼女はわずかにうつむき、己の腹部を押さえていた。

「遠慮なく突かれたな。みなも、大丈夫か?」

「はい……ただ、まだ痛みが続いています」

 自分のものが傷つけられるのは面白くない。
 ナウムは小さく舌打ちすると、みなもの腹部を優しく撫でた。

「今日はもうゆっくり休め。お前の体に何かあったら、オレの気が狂う」

「ありがとうございます、ナウム様」

 みなもの顎を持ち上げ、薄く開いた唇にナウムは口付ける。その後に「行け」と目配せして促した。

 ゆっくりと彼女が後ろに下がって離れると、硬い動きで踵を返して背中を向ける。
 去っていく姿を目で追いながら、ナウムは優越感に浸って微笑を浮かべた。
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