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四章 新たな毒

愛しき者へ贈る首飾り

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   ◇ ◇ ◇

「みなも、ほとんど食事に手をつけていなかったが……どこか具合が悪いのか?」

 屋敷で夕食が振る舞われた後、与えられた部屋へ戻ってすぐにレオニードが尋ねてきた。

「大丈夫だよ。ちょっと今日は疲れて、頭がボーッとするんだ」

 咄嗟に答えつつ目を弧にして笑ってから、みなもはベッドの縁へ腰かける。

 心配そうにレオニードは目を細める。心配しながら、何かあるのではないかと探るような眼差し。

 よく見ているだけでなく、彼は勘もいい。
 狙いを悟られてはいけないと内心みなもが緊張を覚えていると、レオニードがゆっくりと隣へ座った。

「君は無理をしやすいからな。明日は休んだほうがいい」

 大きな手がみなもの頬へ添えられる。思わず上向けば、心配げなレオニードの眼差しが間近にあり、みなもは自分の顔が熱くなるのを実感する。

「問題ない……って言いたいところだけど、少し甘えさせてもらおうかな。俺が潰れたら、他の人に心配かけちゃうしね」

「何かして欲しいことがあれば、遠慮なく俺や浪司に言ってくれ」

「うん、頼りにしてる――浪司は遊びに行っちゃいそうな気がするけど」

 城にいた時は自ら進んで手伝ってくれていたが、ここに来た時から浪司は「ちょっくら遊んでくる」と言って町へ出歩く機会が増えている。今も食事を終えて早々に出かけてしまっていた。

 彼には彼のやりたいことがある。無理にこちらの都合を押し付ける訳にはいかないが――みなもは小さく苦笑する。

「たぶん賭け事してるんだろうな。また負けても知らないんだから……ということで、レオニードに甘えっ切りになると思う。甘え方なんかとっくに忘れてるから、加減が分からなくなってるけど……」

 ふわぁ……と、みなもは手を当てながらあくびをする。それから自分から背と首を伸ばし、レオニードへ軽く唇を重ねた。

 わずかに顔を離して彼を見ると、温かな眼差しと視線がぶつかる。
 頬へ添えていた手が、優しくみなもの髪を撫でた。

「……今、君に渡したい物があるんだ。少し待っていてくれ」

 そう言いながら懐から何かを取り出す。
 チャリ、と金属の音がしたと思えば、レオニードの手中から細い銀色の鎖と、透き通った水色の輝石が垂れ下がった。

「これは……首飾り? わざわざ俺のために買ってくれたの?」

 首飾りなんて、子供の頃に姉が作ってくれた花飾りしか知らない。
 こんなきれいな物、自分には縁のない物だとばかり思っていた。なんだか気恥ずかしいが素直に嬉しい。

 みなもが口元を綻ばせているとと、レオニードは微笑みながら頷いた。

「ああ。ヴェリシアでは生涯を共にする女性に、こうして男性が首飾りをつける風習があるんだ」

 そんな特別な物だったのかと、みなもは改めて首飾りの石を見る。
 見ていると吸い込まれそうな、濁りのない水が湧き出す湖を思わせてくれる石だ。
 
 ただ、初めて手にしたという感じがしない。不思議としっくりくる。
 みなもは小さく笑うと、視線を首飾りからレオニードへと移した。
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