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四章 新たな毒

見抜かれている?

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   ◇ ◇ ◇

「みなも、今日はやけに機嫌がいいな」

 薬の材料を買うために三人で町の市場へ向かっている最中、みなもの横顔をまじまじと見ながら浪司が話しかけてきた。

 小首を傾げながら、みなもは浪司を横目で見る。

「いつも通りにしてるんだけど、そんなに機嫌よさそうに見える?」

「だってなあ……今朝からずっと顔が緩んでるし、薬を作ってる最中に何度も一人で笑ってるし。そりゃあもう幸せそうっていうか、満たされているっていうか……」

 今朝から――思い当たる節がありすぎて、みなもは息を詰まらせる。

 まさかレオニードから離れるために本音を話したら、結ばれることになるとは思いもしなかった。

 毒の問題が解決された訳ではないのに胸が軽く感じるのは、もう一人で重荷を抱えなくてもいいのだと確信を持てるからだろう。

 彼は何があっても逃げずに支えてくれる。
 ずっと孤独の中で、震えながら不安と戦わなくてもいい――こんな偽りまみれの人間に、そんな相手ができたことが嬉しくて仕方がない。

「ハハ、まあね。ちょっと良いことがあったから」

 笑いながら隣を歩くレオニードへ視線を流せば、あからさまに体が強張り、動揺が溢れ出す。

 吹き出しそうになるのを堪えていると、みなもとレオニードを交互に見ながら浪司が愉快げに目を細めた。

「案外、誰かさんと噂通りになったから喜んでたりして」

 内心、ご名答と呟いてからみなもは苦笑した。

「そんな訳ないだろ。レオニードに褒めてもらえたってだけだから」

「ふーん……まあ、そういうことにしておいてやる」

 ニヤニヤしながら浪司は大股で歩き、みなもとレオニードの前に出た。

「じゃあワシはちょっくら珍味を探してくるから、二人の時間を楽しんでこいよ」

 言うなり踵を返し、浪司はむっくらむっくらと歩き出し、小路に入って姿を消してしまった。

 残されたみなもはレオニードと顔を合わせ、頬を引きつらせながら苦笑する。

「俺たちのこと、気づいていそうだね。お城に戻ったら、また侍女のみなさんにあれこれ話しそうだなあ」

「……見世物にされるのは嫌なのだが……」

「もう噂は広がってるみたいだし、浪司が言わなくても勝手にあれこれ言われるよ。諦めるしかないね」
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