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四章 新たな毒

血の秘密2

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 こんな形で仲間の生存を確かめたくはなかった。
 レオニードの命を奪いかけ、国を苦しめる毒が仲間の手で作られたと思うだけで、頭には怒りが巡り、胸は慟哭で張り裂けそうになる。
 かろうじて残っている理性のおかげで、見苦しく取り乱すことは抑えられていた。

 事態は一刻を争う。動揺して遅れる訳にはいかない。
 みなもは唇を噛み締めて心の揺れを抑え込むと、レオニードへ血が滲む指を差し出す。

「この血だけなら毒にも薬にもならないけど、舐めてみる? 少し味は違うかもしれないけど、これだけなら害はないから」

 戸惑いながらレオニードはみなもの手を取り、指先にその血をつける。
 そして口に運んでその血を含み、ぎこちない動きで頷いた。

「……確認、させてもらった。ではこれを――」

「悪いけど、レオニードだけで解毒剤を届けてくれるかな?……しばらく一人にして欲しい」

 レオニードを見上げると、同情とも哀れみとも取れる眼差しでこちらを見つめている。
 言葉を紡ごうとする口の動きに気づき、みなもは小首を振り、目に力を入れた。

 彼のことだから、きっと慰めの言葉が出てくるだろう。
 ただ、今はその慰めを言われるだけ、自分が許せなくなる。
 
 こちらの思いが伝わったらしく、レオニードは「分かった。届けてくる」と言って後ろへ下がり、部屋から出ていった。
 扉が閉まる間際まで、みなもを心配そうな目で見つめながら。

 レオニードが離れていく足音を聞きながら、みなもは天井を仰ぐ。

(仲間がいると分かった以上、バルディグへ行くしかない……毒作りを止めないと……)

 バルディグは奪われた領土を取り戻すため、各国に戦いを挑んでいる最中。毒の被害はヴェリシア以外の国にも及んでいるのは確実だ。

 これ以上、一族の毒を使わせる訳にはいかない。

 己が取るべき行動は決まっているのに、ここへしがみつきたがる自分がいた。

 温かなこの場所から離れたくない。
 彼の隣から離れたくない――。

(……なんて勝手なんだ、俺は。このまま動かなければ、レオニードが心を痛め続けることになるのに。戦場に出れば、また毒にやられるかもしれないのに……!)

 気がつくとみなもの拳は固く握られ、ナイフで切った指先から全身へ痛みが広がっていた。

 この痛みが、自分に与えられている役目を突きつけてくる。

 まだ仲間が生き残っている以上、守り葉としての役目を果たさなければいけない。

 たとえ自分の身を犠牲にしてでも。
 手にしたものをすべて失うことになったとしても――。
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