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四章 新たな毒

血の秘密1

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 屋敷の侍女へ手短に事情を伝えると、彼女は応接間の近くにある来賓用の寝所へと案内してくれた。

 パタン、と扉を閉じると、みなもの姿を隠すようにレオニードが扉の前へ立つ。
 細かい気遣いに感謝しつつ、みなもは部屋の角にあった木の机へ向かい、腰のポーチから小瓶を取り出してコトリと机上に置いた。

 深呼吸してどうにかみなもは心を落ち着かせると、レオニードへ視線を流した。

「念を押して言うけれど……今から見ることは、絶対に喋らないで欲しい」

「分かっている。たとえマクシム陛下に尋ねられたとしても口には出さない。約束する」

 一瞬の躊躇も見せず、レオニードが言い切ってくれる。
 これだけ実直な人だからこそ、彼の言葉を疑わなくてもいい。

 自然とみなもの顔に薄い笑みが浮かんだ。

「うん、信じているよ。だから俺がこれからすることも、信じて見ていて欲しい」

 無言でレオニードが重々しく頷くのを確かめてから、みなもは小瓶へ視線を戻して栓を開ける。
 
 懐にしまっていたケガの処置に使う小さなナイフを取り出すと、右の人差し指の先に刃をあてる。
 ひんやりとした金属の冷たさが指先に広がる。
 胸の動悸に合わせて、指先まで脈打っているのが分かった。

 みなもは息を止め――指先に一線、赤い筋を作る。
 鋭い痛みとともに熱が指先へ湧き上がり、さらに親指で押して雫を作っていく。それを二滴、三滴と小瓶の中へ落としていった。

 レオニードから息を詰める音が聞こえてきた。

「君の血が材料になるとは……」

 血を押し出すのを止めると、みなもは再び小瓶に栓をし、軽く上下に振った。

「俺たち一族の血は薬に混ぜれば万能薬にもなるし、毒に混ぜれば自然にある材料では癒せない厄介な毒にもなる。これを悪用されないために、ずっと一族は血の秘密を守ってきたんだ」

 自分たち守り葉が守るべきものは、久遠の花だけではない。
 一族の知識と技術、己の中に流れる血。そして――。

 みなもは睫毛を伏せると、長息を吐き出した。

「将軍が受けた毒には一族の血が使われている。だから俺の血でなければ相殺できない」

「つまり、毒を作っているのは――」

「……そう。間違いなく俺の仲間が、バルディグの毒を作っているんだ」
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