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四章 新たな毒

憂い

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 城で薬の調合や負傷兵の治療を手伝い続けて、およそ一週間。
 今日もみなもは貸してもらった部屋で、黙々と薬草を調合していた。

 解毒剤の在庫が少なくなっていたので、大壺を火にかけてコーラルパンジーをじっくりと煮出していく。
 額から汗が滴りそうになり、手の甲で拭う。
 集中力がプツリと途絶え、みなもの意識が浮上した。

(作っても作ってもキリがないな。……それだけ頻繁に戦闘が続いているのか)

 人を癒す藥師という生業は、とても気に入っている。
 辛そうな顔に生気が戻り、その人が笑顔を見せてくれると嬉しくて仕方がない。薬師をしていて良かったと思える瞬間だ。

 ただ、ここでは治った負傷兵が、再び戦場へ戻っていく。
 傷つくために送り出しているのだと思うと素直に喜べない。

 みなもは小さく息をつき、わずかにうつむく。

(レオニードもヴェリシアの兵士だから、いつか戦場に出るのか)

 ふと姉のいずみとレオニードが重なる。
 自分を助けようとしてくれた姉は、行方知れずになった。
 このままレオニードも目の前から消えて、会えなくなってしまったら――。

 そう考えた瞬間、みなもの胸にきつい痛みが走った。
 思いがけず息が詰まり、己の胸元をギュッと掴む。

 鼓動に合わせて痛みが全身に広がる度、不安で心が揺らぐ。
 少し想像しただけで動揺する自分に、みなもは苦笑した。

(……弱ったな。もしそんな事態になったら、何をしてでも引き止めそうな気がする)

 失うことが、怖くて仕方ない。
 もう一人になりたくない。
 いっそ彼が消えないように、自分の体へ縛り付けてしまいたい気分だった。

 扉の向こうから、疎らに足音が聞こえてくる。
 恐らく材料を運んできたレオニードと浪司だろうと思い、みなもは頭を振って気持ちを切り替えた。

 がちゃり、と扉が開いて、レオニードと浪司が荷物を抱えて入ってくる。なぜか二人の表情が曇っていた。
 それと同時に、一階からのざわめきも部屋へ入ってきた。

「おかえり、二人とも。下が騒がしいみたいだけど、何かあったの?」

 みなもが尋ねると、荷物を先に隅へ置いたレオニードが近づいてきた。
 眉間に深い皺を刻んでおり、口を開かずとも事の重大さを物語っている。

「実は……最前線で指揮を取っていたフェリクス将軍が、毒の矢を受けて倒れられたんだ」

 レオニードにつられて、みなもも顔をしかめる。

「そんな偉い人がやられたのか……容態は?」

「衰弱しているが、まだ生きていらっしゃる。戦場を離れ、近くの町で治療を受けているそうなんだが……ただ――」 

 言葉を止めて、レオニードはみなもの目を見つめてきた。

「――城にある解毒剤の効きが悪いんだ。どうやら今までバルディグが使ってきた毒とは違うらしい。解毒剤で少しは毒が緩和されているが、このままではお命が危ない」
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