50 / 111
三章 ヴェリシアへ
開かれた道2
しおりを挟む
「傷が癒えぬこの体をみなもに支えてもらいながら、ずっと考えていたんだ。どうすれば君に報いることができるのだろうかと……」
言葉を区切り、レオニードが正面から見合わせてくる。
大きな手がみなもの両肩へ乗せられる。その重みに鼓動が大きく跳ねた。
「横で見ていると、いつも君は寂しそうで、生きていること自体が辛そうだった。みなもは大切な――恩人なのに、過去のことに縛られて苦しみながら生きるのかと思うと、いても立ってもいられなかった」
何も言わないみなもへ、レオニードは申し訳なさそうに目を細めた。
「勝手な申し出かもしれない。だが、これでバルディグにみなもの仲間がいても、いなくても、過去のことに一区切りつけられる。だから……どうか何事にも囚われず、君の人生をもっと大切に生きて欲しい」
一気にみなもの視界がぼやけ、頬へ一筋の涙を流す。
慌てて手の甲で涙を拭う。けれど次から次に雫は流れ、何度も、何度も拭う。
「うわ、嫌だな……泣くなんて女々しい」
仲間たちと離れて、ずっと一人で生きてきた。
まだどこかで仲間が生きているかもしれない、という儚い望みだけが全てだった。
失ったものを取り戻すことしか、頭になかった。
だからレオニードの言葉は、目から鱗だった。
自分だけの人生を生きてもいいのだと――。
常にどこか闇色の薄布をかけたように、ほの暗く見えていた景色が、みなもの目へ鮮やかに映る。
涙はまだ流れていたが、自然と笑みが浮かんでいた。
「ありがとう。ここまで言われたら、もうレオニードから離れられなくなりそうだな。ずっとひとりでやってきて疲れたから、残りの人生はレオニードに支えてもらおう――なんて、あんまり俺を甘やかすとワガママし放題になるぞ」
冗談めかしてみなもが言うと、虚を突かれたようにレオニードの目が丸くなる。
真面目な彼にはきわどい内容だったかと、みなもは「冗談だよ」と首を傾げて見せた。
作業を再開させようと、みなもはレオニードへ背を向ける。
後ろから、「そうか、冗談なのか」という呟きが聞こえてきた。
どこか残念そうな響きを伴っていた気はしたが、自分の思い過ごしだろうとみなもは気に留めなかった。
言葉を区切り、レオニードが正面から見合わせてくる。
大きな手がみなもの両肩へ乗せられる。その重みに鼓動が大きく跳ねた。
「横で見ていると、いつも君は寂しそうで、生きていること自体が辛そうだった。みなもは大切な――恩人なのに、過去のことに縛られて苦しみながら生きるのかと思うと、いても立ってもいられなかった」
何も言わないみなもへ、レオニードは申し訳なさそうに目を細めた。
「勝手な申し出かもしれない。だが、これでバルディグにみなもの仲間がいても、いなくても、過去のことに一区切りつけられる。だから……どうか何事にも囚われず、君の人生をもっと大切に生きて欲しい」
一気にみなもの視界がぼやけ、頬へ一筋の涙を流す。
慌てて手の甲で涙を拭う。けれど次から次に雫は流れ、何度も、何度も拭う。
「うわ、嫌だな……泣くなんて女々しい」
仲間たちと離れて、ずっと一人で生きてきた。
まだどこかで仲間が生きているかもしれない、という儚い望みだけが全てだった。
失ったものを取り戻すことしか、頭になかった。
だからレオニードの言葉は、目から鱗だった。
自分だけの人生を生きてもいいのだと――。
常にどこか闇色の薄布をかけたように、ほの暗く見えていた景色が、みなもの目へ鮮やかに映る。
涙はまだ流れていたが、自然と笑みが浮かんでいた。
「ありがとう。ここまで言われたら、もうレオニードから離れられなくなりそうだな。ずっとひとりでやってきて疲れたから、残りの人生はレオニードに支えてもらおう――なんて、あんまり俺を甘やかすとワガママし放題になるぞ」
冗談めかしてみなもが言うと、虚を突かれたようにレオニードの目が丸くなる。
真面目な彼にはきわどい内容だったかと、みなもは「冗談だよ」と首を傾げて見せた。
作業を再開させようと、みなもはレオニードへ背を向ける。
後ろから、「そうか、冗談なのか」という呟きが聞こえてきた。
どこか残念そうな響きを伴っていた気はしたが、自分の思い過ごしだろうとみなもは気に留めなかった。
0
お気に入りに追加
466
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
毒はお好きですか? 浸毒の令嬢と公爵様の結婚まで
屋月 トム伽
恋愛
産まれる前から、ライアス・ノルディス公爵との結婚が決まっていたローズ・ベラルド男爵令嬢。
結婚式には、いつも死んでしまい、何度も繰り返されるループを終わらせたくて、薬作りに没頭していた今回のループ。
それなのに、いつもと違いライアス様が毎日森の薬屋に通ってくる。その上、自分が婚約者だと知らないはずなのに、何故かデートに誘ってくる始末。
いつもと違うループに、戸惑いながらも、結婚式は近づいていき……。
※あらすじは書き直すことがあります。
※小説家になろう様にも投稿してます。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる