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三章 ヴェリシアへ

意外な来訪者1

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(俺がいる事で少しでも気が楽になったのなら良いけれど……)

 小さく息をついて気持ちを切り替えると、みなもは浪司に向かってニッコリ笑った。

「じゃあ浪司、倉庫までひとっ走りお願いするよ。乾燥させた涼薄荷とタマウチ草を一袋ずつ持ってきて欲しい」

「おう、分かったぞ。丁度ひと休みしたかったところだ。息抜きがてらに行ってくる」

 快い返事をすると、浪司は石臼を使い続けて強張った腕をブラブラさせながら部屋を出て行った。

 みなもは軽く手を振って見送った後、再び大壺の中の様子を確かめる。
 柄杓でゆっくり混ぜていると――。

「これは何の薬なんだ? 臭いがきついな」

 不意に横から若い男の声がした。
 初めて耳にする声。緊張が走り、みなもは素早く彼に振り返る。

 みなもの目前に、半開きの眠そうな目が現れる。
 薄い赤銅色の髪を真中で分け、うなじで毛先を跳ねさせている。背丈はみなもと同じくらいで、男性にしては小柄なほうだ。若い身でありながら重厚感のある藍色の服を着こなしているあたり、彼から身分のよさを感じずにはいられない。

(ヴェリシアの貴族か? 随分ゆるそうな人だな)

 彼の好奇心を隠さぬ無邪気な瞳に気を許し、みなもは微笑を零した。

「これは解熱の薬になります。この臭いのおかげで、気つけ薬にもなりますよ」

「ハハ、使われる者には災難だな。余も風邪を引いて熱を出さぬようにせんとな」

 ひとしきり笑ってから、男はみなもの目を見つめる。
 口元は笑みを浮かべたままだが、その眼差しは真摯なものだった。

「……レオニードからそなたの事を聞いたぞ。あいつは余と身分こそ違うが、大切な友人――レオニードの命を救ってくれて、心から感謝する」

 そう言うと男は手を差し出してきた。
 一抹の後ろめたさを感じながらも、みなもは彼と握手を交わす。

「私も薬師のはしくれですから、お力になれて何よりです。……あの、私はみなもと申しますが、貴方のお名前は?」

「すまぬ、名乗るのが遅くなってしまったな。余は――」

 手を放して男が名乗ろうとした時、部屋にレオニードが戻ってきた。
 彼を見るなり、レオニードは慌ててその場に跪いた。
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