男装の薬師は枯れぬ花のつぼみを宿す

天岸 あおい

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三章 ヴェリシアへ

朗報に湧く彼らを見ながら思うこと

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「ここが藥師たちの作業室になる。あとはコーラルパンジーを渡せば、彼らが解毒薬を作ってくれる」

 そう言うとレオニードは扉を軽くノックし、扉を開けた。
 部屋の中から温かい空気と、薬草独特の青臭い香りに出迎えられる。ザガットの薬草店よりも臭いがキツい。
 それでもみなもは平然としていたが、レオニードと浪司はむせていた。

 大きな部屋の中では十人ほどの薬師が、各々の机で薬草をすり潰したり、紙になにか覚え書きをしたり、天秤で薬を量ったりと慌ただしい様子だった。
 扉の音に気づいていないのか、誰も作業の手を止めようとはしない。

「誰か来てくれないか! コーラルパンジーを持ってきた」

 レオニードの声が室内に響いた瞬間、薬師たちは弾かれたように頭を上げた。
 それぞれ年齢は違うだろうが、一見すると四十代、五十代の中年男性ばかりに見える。もっと若い者もいるかもしれないが、一様に疲れ果てて生気が弱々しい。

 部屋の熱気で白い肌を赤く染めていた藥師たちは、顔を見合わせながら「おお!」と歓声を上げる。

 年長者らしき白ヒゲをたくわえた一人の老人が、みなもたちへ歩み寄ってきた。

「よく持ってきてくれた……本当に、ありがとう」

 ずっともどかしい思いをしながら、薬を調合し続けていたのだろう。憔悴しきった顔に安堵の色が浮かんでいる。

 レオニードは荷袋を開けると、コーラルパンジーの入った革の袋を手渡す。
 それを受け取ると、老人は「こっちに集まってくれ」と中央の机に他の藥師たちを集め、袋を開けて中身を取り出した。

 これで解毒剤が作れると喜ぶ藥師たちを、みなもは目を細めて見つめる。
 彼らの仲間が助かるのは嬉しいが、それ以上に助けが間に合う命がたくさんあることが羨ましかった。

 もうどうしようもできないこと。
 分かっていても、脳裏に隠れ里を襲われた時のことが浮かんでしまう。

 無力な幼子では、消えていく命を目の当たりにしながら逃げることが精一杯。
 あの時の悔しさがよみがえり、みなもの胸を刺してくる。痛みを覚えて小さく顔をしかめていると、

「みなも?」

 城の薬師たちの元へ向かい、話をしていたはずのレオニードに話しかけられる。
 ハッと我に返り、みなもは微笑で本心を隠す。
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