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三章 ヴェリシアへ
オジサン言うな
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焦る気持ちは分かる。自分も同じ立場なら無理を押してでも先へ進もうとするだろう。だからこそみなもは強くレオニードを引き止めることができなかった。
できれば交代で馬の手綱を握りたいところだが、土地感のないみなもと浪司では、迷走するのは目に見えていた。
「ヴェリシアの城に着いて、ばったり倒れて死んじゃった……なんて嫌だからね。俺は」
一言釘を刺しておいて、みなもは小窓を閉めて座り直す。
浪司が身を震わせてから、歯を見せて笑った。
「レオニードのヤツ、一日中外にいてよく凍りつかねぇな。ま、何かあったらワシがアイツを温めてやるからな」
「頼りにしてるよ。獣のほうが体温高そうだ……コホン」
うっかり口が滑り、みなもは一つ咳をして誤魔化す。
「んん? 何か言ったか?」
「独り言だよ、気にしないで。あ、そうだ浪司。目的の珍味を食べに行くなら、どの町で俺たちと別れるの? 道中気をつけてよ」
向かう場所が同じだったから一緒に旅をしてきた。しかし、これから先の目的は全く違う。
それにベスーニュでも襲われたのだ。これから先、何が起きるか分からない。全く関係のない浪司を、これ以上付き合わせる訳にはいかなかった。
お互い、また無事に会えればいいけれど……。
みなもが内心しんみりしていると、急に浪司が頭を軽く小突いてきた。
「可愛い弟分をこのまま放っておけるか。みなもの用事が済むまで護衛してやる」
「いつの間に弟分にされたんだよ。むしろ俺と歳が離れているから、遠縁のオジサンみたいなもんじゃない?」
「オジサン言うな。まだ三十四だぞ」
実際の年齢というより、外見がオジサンじゃないか。
そう言いそうになるのを抑え、みなもはわずかにはにかんだ。
「……ありがとう。心強いよ」
「そうだろうとも。お前さんはもう少し、人に甘えたほうがいいぞ。人間、一人で生きている訳じゃないんだからな」
くだけたことしか言わない口が、珍しく真面目なことを言っている。
浪司の言葉が耳に痛い。
笑みを浮かべて「分かっているよ」と答えながら、みなもは背もたれに寄りかかり、外を流れる雪を見つめた。
できれば交代で馬の手綱を握りたいところだが、土地感のないみなもと浪司では、迷走するのは目に見えていた。
「ヴェリシアの城に着いて、ばったり倒れて死んじゃった……なんて嫌だからね。俺は」
一言釘を刺しておいて、みなもは小窓を閉めて座り直す。
浪司が身を震わせてから、歯を見せて笑った。
「レオニードのヤツ、一日中外にいてよく凍りつかねぇな。ま、何かあったらワシがアイツを温めてやるからな」
「頼りにしてるよ。獣のほうが体温高そうだ……コホン」
うっかり口が滑り、みなもは一つ咳をして誤魔化す。
「んん? 何か言ったか?」
「独り言だよ、気にしないで。あ、そうだ浪司。目的の珍味を食べに行くなら、どの町で俺たちと別れるの? 道中気をつけてよ」
向かう場所が同じだったから一緒に旅をしてきた。しかし、これから先の目的は全く違う。
それにベスーニュでも襲われたのだ。これから先、何が起きるか分からない。全く関係のない浪司を、これ以上付き合わせる訳にはいかなかった。
お互い、また無事に会えればいいけれど……。
みなもが内心しんみりしていると、急に浪司が頭を軽く小突いてきた。
「可愛い弟分をこのまま放っておけるか。みなもの用事が済むまで護衛してやる」
「いつの間に弟分にされたんだよ。むしろ俺と歳が離れているから、遠縁のオジサンみたいなもんじゃない?」
「オジサン言うな。まだ三十四だぞ」
実際の年齢というより、外見がオジサンじゃないか。
そう言いそうになるのを抑え、みなもはわずかにはにかんだ。
「……ありがとう。心強いよ」
「そうだろうとも。お前さんはもう少し、人に甘えたほうがいいぞ。人間、一人で生きている訳じゃないんだからな」
くだけたことしか言わない口が、珍しく真面目なことを言っている。
浪司の言葉が耳に痛い。
笑みを浮かべて「分かっているよ」と答えながら、みなもは背もたれに寄りかかり、外を流れる雪を見つめた。
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