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二章 暗紅の瞳の男

懲りない熊おじさん

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   ◇ ◇ ◇

 夕食を終える頃には窓の外が暗くなり、民家や店から零れる灯りがほのかに夜を迎えようと照らし始める。

 まだ戻らぬ浪司を待たずに二人で食事を済ませてから部屋へ戻ると、みなもは床に薬研を置いて手持ちの薬草を粉にし、これから必要になりそうな薬を調合した。レオニードは剣を鞘から出して、丹念に手入れをし始める。

 その最中、廊下からダン……ダン……とゆっくり重たい足音が近づいてきた。

 部屋の前で足音が消えると、扉が申し訳なさそうに開く。
 現れたのはしょんぼりと肩を落とし、見るだけで憐れみたくなってしまうような湿っぽい顔をした浪司だった。

「お帰り、浪司。賭場はどうだった? 少しは勝てたのか?」」

 明らかに負けの空気を背負っていると気づきながら、みなもは敢えてそう尋ねる。
 うっ……と浪司は息を詰まらせると、唇を尖らせながら目を逸らした。

「……初めだけ。今日は良い流れが来てるぞ、と思って大勝負に出たら……」

「返り討ちにあっちゃった? 勝ってる時にやめればいいものを……賭け事は引き際が肝心だよ。それができないなら手を出さないほうがいいと思うんだけど」

 呆れを隠さないみなもの言葉に、レオニードが大きく頷く。

「俺に生き様を見ろと言っていたが、やはり手堅く生きたほうがいいとしか思えない」

「レ、レオニードまで……うう、次こそは絶対に当ててやるからな……っ」

 ……どうしよう。懲りてないよ。この熊おじさん。
 グッと硬く拳を握る浪司に苦笑しながら、みなもは「まあ頑張りなよ」と棒読みであしらう。その様子に浪司がますます不本意そうに頬を膨らませた。

「心がこもってねーよ、心が。せっかくいい情報を仕入れてきてやったのに」

「いい情報?」

 気になったので素直に尋ねると、浪司は得意げに声を弾ませた。

「賭場にな、最近儲けている宝石商がいたんだ。で、どうしてそんなに儲かってるのか聞いたら、バルディグから大量にインプ石を注文されて儲かっているんだとよ」

 みなもは笑みを消して口元に手を当てると、頭の中でインプ石を合わせて毒を想像してみる。

 この石自体は痛み止めの薬の材料として重宝されるが、実はどれだけ効きの遅い毒でも即効で効くようになるという変化をもたらす材料でもある。

 一般には知られていない裏の使い道。
 これを毒に使えることを知っている人間は、かなり薬師の知識に精通している。

 確定ではない。しかし仲間がバルディグにいる可能性は高くなった。
 みなもは口から手を外し、浪司に微笑を送る。
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