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二章 暗紅の瞳の男
ベスーニュの街
しおりを挟む山を降りてから整地された道を進み、小高い丘で馬車は止まる。
みなもが外へ出ると、丘の下に賑やかな街並みや港に停泊する様々な船が目についた。海風に帆や店の旗がたなびき、街の向こうには藍と緑の海が混じり合い、日差しを浴びて美しく輝いている。
ベスーニュの街はヴェリシア西端の貿易都市。ザガットの町に比べて規模は大きく、大陸の北西で一番活気がある港町。みなもが北へ出向いて一族の行方を捜す時、必ず立ち寄る街だった。
顔に当たる日差しが強く、みなもは目を細める。
足元がふらついてしまい、丘からベスーニュの街へ続く階段に腰かける。馬車酔いが抜けず、まだ体が揺れている感じがする。下を向いたら吐きそうだった。
みなもは強引に頭を上げて街の入口を眺める。手前は建物がまばらだが、街中に入れば入るほど密集している。人通りも多い。
次は馬車じゃなくて人ごみに酔いそうだ。
みなもが遠い目をしていると、隣に来た浪司が目前で手を振ってきた。
「歩けそうかーみなも? 無理だったら担いでやるぞ」
心配させまいと、みなもは吐き気を呑み込んで微笑んだ。
「大丈夫、どうにか歩けるよ。ただ、ちょっと静かな所で休みたい」
「任せてくれ。ここはよく来ているから、ワシの庭みたいなもんだ。いい穴場があるから連れて行ってやるぞ」
口端を上げてから、浪司は後ろを向き「それでいいか?」とレオニードへ尋ねる。
無言で頷いてからレオニードはみなもに近づき、手を差し伸べた。
「みなも、立てるか?」
少しレオニードの大きな手を見つめてから、みなもは頷いて彼の手を取る。そのまま力強く手を引かれ、なんの苦もなく立ち上がることができた。
以前なら北方の人間の手につかまるなんて、と思っていただろうが……慣れるものだと、みなもはわずかに苦笑した。
浪司を先頭にして、さっそく階段を下りて街へ足を踏み入れる。すぐに横道へ逸れて、幅の狭い小路に進んでいけば、両脇に並ぶレンガ造りの建物が陰を作り、疲れた体を日差しから守ってくれる。
こちらの様子をうかがいながらも、軽い足取りで浪司は進んでいく。後姿を見ているだけでも、活き活きとしている様子が分かった。
ベスーニュの街は賭場も賑やかで大きい。今から浮足立っていることが分かってしまい、みなもの目が据わっていく。
「まさか馴染みの賭場へ連れて行く気じゃないだろうね?」
「あ、その手があったか。でもここまで来たら引き返すのもなあ……もう着いちまったし」
悔しげに唸りながら浪司が立ち止まった所は、小さな東屋だった。
住民の憩いの場でもあり、訪れた旅人が街中で美食の匂いの誘惑に負け、購入してしまった物を落ち着いて楽しめる場所。
石の長椅子にみなもが腰かけると、屋根の影に思わず癒される。
ほっと一息つくみなもを見て、浪司がニッと歯を見せて笑う。
「ちょっくら飲み物買ってきてやるから、しばらくそこで休んでろ。レオニードもな。そこそこ回復はしてきたが無理はすんな。ほら」
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