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一章 若き薬師と行き倒れの青年

突然の告白2

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 今までの沈黙が嘘のようにレオニードが話しかけてくる。焦っているのか次第に早口となり、顔をみなもへ向けて前のめりになっていく。

「落ち着いて、レオニード。巻き込みたくないって言われても、もう何日も一緒にいるんだから今さらだろ。まずは事情を教えて欲しい。そうすれば自分で身の振り方を考えるからさ」

 レオニードから漂ってきた緊張を解すように、みなもは微笑を浮かべながら肩をすくめる。

 ここまで言えば彼も事情を話してくれるだろうとみなもが思っていると、レオニードはまぶたを閉じ、眉間にシワを寄せて小さくうなる。

 そして意を決したように目を開き、みなもを真っすぐに見据えた。

「……みなも、ヴェリシアという国は知っているか?」

「ヴェリシア? 北方にある国だっていうのは知っているけど、どんな国かはよく知らないな」

 本当は詳しく知っているが、様子を見るためにみなもは馴染みのないふりをする。

 ヴェリシアは大陸の北方にある国々の中でも西側に位置し、海に面した国。
 今はバルディグと交戦中だが、昔から近隣の諸国との関係が良好で、交易の拠点として北方の玄関を担っている国。何度か足を運んだが仲間たちの噂すらなくて、ただ通過するだけの国という認識だ。

 レオニードが「知っているだけで十分だ」と頷く。

「俺はヴェリシアの人間だ。兵士として、王宮に仕えている」

 ようやく語り始めた素性。これは釣りどころじゃないと、みなもは糸を湖から引き上げ、竿を脇に置いた。

 一息ついてからレオニードは再び口を開いた。

「今、ヴェリシアは隣国のバルディグから攻撃を受けている。厄介なのは、相手は俺たちの知らない毒を、剣や矢に塗って攻撃してくる。どうにか城の薬師が解毒薬の作り方を見つけたが……大陸の東部にしか生えない薬草が必要で、俺はそれを手配しに来たんだ」

「じゃあその傷は、バルディグの兵にやられたってことか」

 みなもの話にレオニードは「そうだ」と短く答えた。

「北からそのまま東へ向かうとなれば、バルディグを通過しなくてはいけない。解毒薬のために行こうとする俺を、相手が見過ごしてくれるはずもない。だから遠回りでも一度本国から南下し、このザガットから東へ向かおうとしたんだが――」

「それでも敵は見過ごしてくれなくて、追われて、戦闘になってケガをしたってところか」

「ああ。追手の中に手練れがいて、斬り込まれてしまった。負傷しながらもどうにか逃げたが、毒が回って倒れてしまい……道半ばで死ぬのかと思っていたが、みなもに助けられた。改めて礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」
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