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陛下は怖がり?

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   ◇ ◇ ◇

「サティア、約束通りに歌を――大丈夫か? 昼間っから疲れ果てた顔してるぞ」

 翌日、後宮の庭に現れたヨンムが、私を覗き込んで顔をしかめた。

「……大丈夫よ。ちょっと、寝不足なだけ」

 どうにか笑いで誤魔化しながら、私は昨夜のことを思い出す。

 陛下は言われた通り、私が気を失うまでこの身を弄んだ。
 でも純潔は確かに奪わなかった。ただ私を啼かせ、その声と溢れ出る愛液を味わい、性器をこすり合わせてその淫らな粘りと音を堪能しただけ。

 あれを陛下は飽きるまで、毎日続けられるのかしら?

 考えた途端、体が陛下に教えられてしまった甘い欲を思い出してしまう。

 力が抜けてその場へ崩れ落ちそうになるのを、私はどうにか我慢する。
 少し落ち着かないと歌えない。回復するための繋ぎにヨンムへ尋ねた。

「ねえヨンム。私、陛下のご不興を買ってここへ閉じ込められているのだけれど……」

「そうなの? お気の毒だね。あの王様、何をしたら怒るか謎だもんなあ。心当たりは?」

「私が陛下の誕生日を祝う宴で、多くの人から愛される歌を歌ったから……それを快く思わなかったみたい」

「愛かあ……あの王様が一番嫌がることだね」

 さらりとヨンムが断言して、私は顔をしかめる。

「どうして嫌がるのかしら……? 陛下は国の人たちからどう思われているの?」

「なんで愛が嫌なのか、誰も分からないよ。何言っても信じてくれないんだもの……取り付く島がなくて、みんな怖がってる」

「信じてくれないって、どうして?」

「知らないよ。王様になる前から怖いんだもの。厳しくて、結果を目にするまで誰も信じない……嫌な王様だろ?」

 ヨンムの話に私は頷かず、首を傾げる。

「それだけ慎重な方なのね。でも、そんな方がどうして私をここへ? 信用できない相手を、後宮なんて自分の寝首をかけるような所へ入れるなんて……」

「慎重、ね。あの王様をそんな風に考えるんだ」

「だって、信じるってとても怖いことだもの。相手を見極めた上で信用しても、上手くいかないことなんて珍しくないし」

 人を見る目には自信がある。
 あの兎のおじいちゃん獣人ラービーが信用できると見極めて――その結果がこれなのは残念だけれど。

 自分に苦笑してから、私は頭によぎったことを漏らした。

「あんなに強くて立派な方なのに……怖がりなのかも」

「怖がり? あり得ないよ。勇猛果敢な王様だから。どんな魔物でも挑む方だよ? 怖がりなもんか」

「ヨンムは陛下のことをよく知ってるの?」

「え……?! し、知らないけど……みんながそう言ってるから」

「知らないのに決めつけるのはよくないと思うわ。王様だからこそ無理していらっしゃるかもしれないし――」

 歌を聴かせるはずが、陛下の話を延々と続けてしまう。

 歌にしか興味を持てない私が、陛下のことを知りたいと考えている。
 そんな自分の変化に、内心戸惑うばかりだった。
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