不信の獣王は囚われの吟遊姫に愛を乞う

天岸 あおい

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●知らぬ体でも啼かされて

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   ◇ ◇ ◇

 夜になり、パンとチーズと細長い桃のような果実が運ばれてきて、私は出されるまま口にする。

 食べ終わった後、時間が経っても陛下はいらっしゃらなかった。

 誰もいないから牢代わりにできると考えただけなのかもしれない。
 本気で後宮に囲うつもりはなさそうだと内心ホッとしていた。



 でも寝る前の水浴び最中、妙に体が熱いことに気づく。
 しっかり肩まで泉に浸かっても体の芯は火照るばかり。

 体を拭いて大きな寝台に入っても、腰の奥が疼いて眠気が散らされる。

「は、ぁ……」

 吐息が熱い。
 全身がもどかしくて敷布の上で身をよじっていると、

「よく効いているな。人間にも効果が出て何よりだ」

 低く、薄笑いを滲まるせベルゼム陛下の声。

 思わず体を起こせば、黒いローブを羽織っただけの陛下が寝台の縁に腰かけていた。

「私に、何を?」

「知らぬフリか? 分かっているくせに。後宮へ身を置く者の役目を果たせるよう、催淫効果のある蜜愛の果実をお前に与えた」

 ぎちり、と陛下が私に向かって身を乗り出す。
 本物の狼のようなギラついた瞳に、体がすくんで動けない。

 それでも大きな手が伸ばされた瞬間、咄嗟に私は身をすくめ、小さく首を横に振っていた。

「陛下……っ、私は、陛下が望むように、悦びを与えることはできません」

「獣人とは交わりたくないか? それとも愛を歌う者が、何も知らぬとでも?」

「ええ、知りません。私は愛を歌うだけ。私自身は何も知りません」

 ベルゼム陛下の身が強張る。
 でもすぐに私の体へのしかかり、強引に腕を開かせて胸や腹部のにおいを嗅いでくる。

 最初は苛立った顔。
 だけど次第に険しさが弱まり、目を丸くして私を見た。

「サティアよ……本当に知らぬのだな。匂いで分かる」

「でしたら、どうかおやめ下さい。つまらぬ者を、陛下が相手にするなど……」

 これで解放してもらえる――希望の光が見えたのは一瞬だけ。
 陛下は私を押さえつけ、顔を覗き込みながら私の唇を指でなぞった。

「ならば愛を歌うその唇で、愛欲に染まり悦び啼く声を私に聞かせるがいい」

「そんな……っ……ァ……ッ」

 残酷に告げたその口で、陛下が私の耳をかじる。
 過敏になった体はそれだけでビクンッ、と大きく跳ね、甘い嬌声を私に出させてしまう。

 体は逆らえない。
 首筋を、乳房を何度もしゃぶられ、頭の中が白く弾ける。

「ふぁ……ン……っ……あぁ……ッッ」

 思考が追い付かないまま、陛下が望んだ通りに私は啼き続け、肉欲を教えられていく。
 
 そして陛下は私の脚を大きく広げ、躊躇せず顔を埋めた。

「嘘をつかなかった褒美だ。純潔は奪わないでおいてやろう。その代わり、気を失うまで乱れてもらうぞ?」

 熱く大きな舌で舐め上げられ、じゅる、と吸われ。私の意識が快感で飛んだ。

「はぁ……ぁぁ……ッ……へ、陛下ぁ……ひぅ……っ……ァ――」

 こんなのは愛じゃない。
 獣が遊びたい獲物を弄んでいるだけ。

 分かっている。それなのに――。

「もっと啼け。その愛を歌い紡ぐその声で、私のために」

 時折陛下が私へ笑いかける。
 その目がどこか優しくて、私は感じるままに啼き喘ぐのをやめられなかった。
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