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四章 試練と不調と裸の付き合い

熱を覚える

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「頼むから、察してくれ。恥ずかし過ぎて死にそうだから」

「死なないで下さい! カツミさんが死ぬなんて……」

「たとえ話だ。死にはせん」

「ああ……良かったです」

「良くない。ここまで勘違いするとは……あのな、俺も好きだから。ライナスに応えたいのは、我慢じゃなくて……俺が、そうしたいからだ」

 俺が誰かに告白する日が来るなんて。
 誰も受け入れずに生きたいと願っていたのに。俺の都合に誰も巻き込みたくなったのに。それでもライナスのぬくもりを覚えてしまった今、もっと欲しくてたまらない。

 生涯独りで漆に向き合う覚悟だったのに、ライナスは俺と一緒にこの世界へ沈むことを望んでくれた。誰かのぬくもりを得ながら、自分の望みを叶えられる――ずっと抑え込んでいた欲が胸の奥底から顔を出す。

「俺に変な気は遣うな、ライナス。今まで通り俺を振り回せばいい。それで俺がどれだけ救われているか……」

「カツミ、さん……」

「ここにずっと居たいなら、もっと貪欲になれ。創作のことも、俺のことも、全部かっさらえ。お前にはそれができるだけの力がある」

 俺はライナスに顔を寄せる。

「興が乗らないなら、それでもいい。いつでも俺に溜まったものをぶつけてしまえ……それで早く、いつもの笑顔を見せてくれ」

 ゆっくりと自分から首を伸ばし、ライナスの唇に口付けた。
 ――ガバッとライナスの両腕が俺を抱き込む。昼間の無反応とは真逆の激しさに、俺は咳き込みかける。

 年上で師匠である俺がリードするべきなんだろうが、キスに応えるだけで精一杯な上に、この先をまったく知らない。しばらくされるがまま唇を許し続ける。

 ようやく俺を腕の中から解放したライナスが、俺に覆い被さる。ストーブの灯りでかろうじてぼんやり見えるライナスの顔に、満面の笑みが浮かんでいた。

「ずっと、カツミさんが欲しかったです……もっと早く、抱きたかったです」

「だろうな。バレバレだったからな」

「でも無理させたくないので――」

 ライナスは俺の耳元に顔を寄せ、そっと囁く。

「ゆっくり、優しく、カツミさんを愛しますから。いっぱい喜んでもらえるよう、たくさん、たくさん……」

 吐息で耳をくすぐりながら、宣言通りにライナスは俺の首筋や頭にもキスを刻んでいく。

 漆のにおいが染みついている指にまでキスを贈られた時、頭の芯が一瞬で燃えた。

「愛しています、カツミさん……ずっと――」

「ふ……っ……俺も……あ、愛して……る」

 掠れて今にも消えそうな声で告げた想い。ライナスから返ってきたのは感嘆のため息だった。



 言った通りに、ゆっくりと、確実に俺はライナスに食われていく。

 もうこれで俺はライナスの熱を忘れることはできない。今までのように独りでこの家に籠り、漆だけに生きていくことはできない――ぬくもりを知ってしまった以上、もう独りの寒さに耐えられない。

 俺はライナスの背にしがみつく。
 さらに体は熱を覚えた。
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