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三章 ライナスのぬくもりに溶かされて

初めてのキスでこれはやり過ぎだ

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「暖を取る、だけだからな」

「カツミさん? 良いんですか?」

「冬の間だけだぞ」

 ひゅっ、とライナスから息を引く音が聞こえてくる。
 しばらく俺を抱き締めた後、ライナスが囁く。

「一回だけ、キスを許して下さい」

「さっき頬にしただろ」

「いえ、ここに……」

 ライナスの人差し指が、俺の唇に軽く触れる。
 駄目だと言いたくなるのを抑え、俺は息をついて覚悟を決める。

「……好きにしろ」

 現実を知って落胆してくれと頭の片隅で願いながら許してやると、ゆっくりライナスが顔を上げて俺を覗き込む。もっとニンマリするかと思ったが、その顔はどこか切なげで、見ているこっちが苦しくなった。

 ゴクリと大きく喉を動かした後、ライナスは俺に顔を寄せていく。
 唇が触れ合う直前にまぶたを閉じれば、一秒遅れで生々しい柔らかさとぬくもりが俺の口を覆う。

 ただ重ねるだけなら意外といける。恥ずかしくてたまらんが。
 これぐらいなら、まあ、うん……と絆されかけたのは最初だけ。不意に舌を唇の奥へ差し込まれた瞬間、俺は咄嗟にライナスの肩を叩いた。

「ん……っ、ンん……!」

 一気にことを進めようとするな。心の準備がまだできてない――ああこの野郎。ここぞとばかりにがっつりやりやがって!

 ようやく唇が解放された時には、俺は訴える気力を根こそぎ奪われ、ライナスの下でぐったりとするしかなかった。

「……馬鹿野郎。散々やめろと訴えたのに」

「え? あれはもっとして欲しいと、リクエストしていたのでは?」

「違うっ。やりすぎだ」

 とんだ誤解をされたが怒りはなかった。腹を立てる力を奪われたせいで、呆れた息を大きくつくことしかできない。

 本当に誤解していたらしく、ライナスがシュンとなってうつむく。しかしすぐに顔を上げ、俺の頬に手を添えた。

「やりすぎ、ごめんなさい。でも、カツミさんがあったかくなって良かったです」

 確かに熱くてたまらんがな。この熱さなら部屋の寒さが丁度いいぐらいだ。
 俺は体を起こして今度こそ布団から抜け出す。冴えた空気でもなかなか下がらない熱を自覚しながら、俺はライナスに背を向けたまま告げる。

「ここはヘクサが多い。一緒に寝たいなら朝飯食べた後、俺の部屋に布団を移しておけ」

「は、はいっ、嬉しいです!」

 ライナスの声が明るい。振り返らなくても、今は顔が悦びで輝いているだろうと確信する。

 なぜこんなおっさんとキスして、ここまで喜べるんだ?
 考えるだけ深みにハマってしまう気がして、俺は小首を振って思考を止め、部屋を出た
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