おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい

文字の大きさ
上 下
3 / 79
一章 押しかけ弟子は金髪キラキラ英国青年

金髪男が家に来た!

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 翌日。俺には直視が辛い快晴の日の午前中、俺の家へ辻口はやって来た。

「克己、急にすまんな。ちょっと邪魔するぞ」

 ガラリ、と連絡もなく玄関の引き戸を開けられ、俺は絶句する。
 急に来たこともそうだが、信じられないことに辻口の後ろにはヤツがいた。

「カツミさん、オジャマします!」

 昨日と変わらず晴れやか顔の金髪男。心なしかウキウキしながら辺りを見渡し、中へ入ろうとするが……ゴンッ。玄関口より背があるせいで、無様に頭をぶつけた。

「気を付けろよー。日本の家屋は低い所が多いから、ライナスには危険がいっぱいだ」

 ……おい辻口。お前、いつからその金髪男の名前を呼びながら、親しく話せる関係になったんだ?

 俺が顔を引きつらせていると、辻口が腹立たしいほど朗らかに笑う。

「紹介する。こちらはイギリスから来たライナス・モルダー・コンウェイさんだ」

「ハ、ハジメ、まして! ライナスと言いましゅ」

「ライナス落ち着けー。克己相手に緊張して噛むなよ」

「で、でもツジグチさん、ワタシ、ウレシくて……」

 状況がさっぱり呑み込めない。なぜ俺は朝から辻口と挙動不審金髪男の漫才を見せられているんだ?

 激しく困惑していると、辻口が笑いながら告げてくる。

「実はな、昨日あれから話を聞き込んでみたら、前からメールで漆芸館に色々と質問してくれていたライナスさんだって分かってな。生の現場を見せて欲しくて、わざわざイギリスからここまで来てくれたんだよ」

「……事情は分かった。だが、なぜ俺の所に来た?」

「克己の塗りに一目惚れしたって」

 塗師になって二十二年。初めて言われた言葉に俺は固まる。

 俺の塗りに一目惚れ? どこをどう見たら惚れるんだ?
 理解できぬ俺に、金髪男――ライナスは両腕を大きく広げて語り出す。

「カツミのヌリ、見た。サムライ、そこにいた! カツミ、クールビューティー!」

 びゅーてぃー? 興奮しておかしなことを言い出すライナスを、俺は唖然と見つめてしまう。

 辻口が苦笑しなら「落ち着けー」とライナスの背を叩き、鎮めてから俺に向き直った。

「つまりライナスはお前の塗りに惚れ込んで、お前の元で山ノ中漆器を学び――」

「無理だ。他を当たってくれ」

「一瞬でも考えてくれよー」

 人嫌いの俺が教える? 地元民相手ですら上手く交流できない時があるのに、海外の人間に教えるなんて不可能だ。俺の心が耐えられん。

 ハァ、と大きく息をついて俺は辻口を睨む。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...