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一章 押しかけ弟子は金髪キラキラ英国青年
金髪男が家に来た!
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◇ ◇ ◇
翌日。俺には直視が辛い快晴の日の午前中、俺の家へ辻口はやって来た。
「克己、急にすまんな。ちょっと邪魔するぞ」
ガラリ、と連絡もなく玄関の引き戸を開けられ、俺は絶句する。
急に来たこともそうだが、信じられないことに辻口の後ろにはヤツがいた。
「カツミさん、オジャマします!」
昨日と変わらず晴れやか顔の金髪男。心なしかウキウキしながら辺りを見渡し、中へ入ろうとするが……ゴンッ。玄関口より背があるせいで、無様に頭をぶつけた。
「気を付けろよー。日本の家屋は低い所が多いから、ライナスには危険がいっぱいだ」
……おい辻口。お前、いつからその金髪男の名前を呼びながら、親しく話せる関係になったんだ?
俺が顔を引きつらせていると、辻口が腹立たしいほど朗らかに笑う。
「紹介する。こちらはイギリスから来たライナス・モルダー・コンウェイさんだ」
「ハ、ハジメ、まして! ライナスと言いましゅ」
「ライナス落ち着けー。克己相手に緊張して噛むなよ」
「で、でもツジグチさん、ワタシ、ウレシくて……」
状況がさっぱり呑み込めない。なぜ俺は朝から辻口と挙動不審金髪男の漫才を見せられているんだ?
激しく困惑していると、辻口が笑いながら告げてくる。
「実はな、昨日あれから話を聞き込んでみたら、前からメールで漆芸館に色々と質問してくれていたライナスさんだって分かってな。生の現場を見せて欲しくて、わざわざイギリスからここまで来てくれたんだよ」
「……事情は分かった。だが、なぜ俺の所に来た?」
「克己の塗りに一目惚れしたって」
塗師になって二十二年。初めて言われた言葉に俺は固まる。
俺の塗りに一目惚れ? どこをどう見たら惚れるんだ?
理解できぬ俺に、金髪男――ライナスは両腕を大きく広げて語り出す。
「カツミのヌリ、見た。サムライ、そこにいた! カツミ、クールビューティー!」
びゅーてぃー? 興奮しておかしなことを言い出すライナスを、俺は唖然と見つめてしまう。
辻口が苦笑しなら「落ち着けー」とライナスの背を叩き、鎮めてから俺に向き直った。
「つまりライナスはお前の塗りに惚れ込んで、お前の元で山ノ中漆器を学び――」
「無理だ。他を当たってくれ」
「一瞬でも考えてくれよー」
人嫌いの俺が教える? 地元民相手ですら上手く交流できない時があるのに、海外の人間に教えるなんて不可能だ。俺の心が耐えられん。
ハァ、と大きく息をついて俺は辻口を睨む。
翌日。俺には直視が辛い快晴の日の午前中、俺の家へ辻口はやって来た。
「克己、急にすまんな。ちょっと邪魔するぞ」
ガラリ、と連絡もなく玄関の引き戸を開けられ、俺は絶句する。
急に来たこともそうだが、信じられないことに辻口の後ろにはヤツがいた。
「カツミさん、オジャマします!」
昨日と変わらず晴れやか顔の金髪男。心なしかウキウキしながら辺りを見渡し、中へ入ろうとするが……ゴンッ。玄関口より背があるせいで、無様に頭をぶつけた。
「気を付けろよー。日本の家屋は低い所が多いから、ライナスには危険がいっぱいだ」
……おい辻口。お前、いつからその金髪男の名前を呼びながら、親しく話せる関係になったんだ?
俺が顔を引きつらせていると、辻口が腹立たしいほど朗らかに笑う。
「紹介する。こちらはイギリスから来たライナス・モルダー・コンウェイさんだ」
「ハ、ハジメ、まして! ライナスと言いましゅ」
「ライナス落ち着けー。克己相手に緊張して噛むなよ」
「で、でもツジグチさん、ワタシ、ウレシくて……」
状況がさっぱり呑み込めない。なぜ俺は朝から辻口と挙動不審金髪男の漫才を見せられているんだ?
激しく困惑していると、辻口が笑いながら告げてくる。
「実はな、昨日あれから話を聞き込んでみたら、前からメールで漆芸館に色々と質問してくれていたライナスさんだって分かってな。生の現場を見せて欲しくて、わざわざイギリスからここまで来てくれたんだよ」
「……事情は分かった。だが、なぜ俺の所に来た?」
「克己の塗りに一目惚れしたって」
塗師になって二十二年。初めて言われた言葉に俺は固まる。
俺の塗りに一目惚れ? どこをどう見たら惚れるんだ?
理解できぬ俺に、金髪男――ライナスは両腕を大きく広げて語り出す。
「カツミのヌリ、見た。サムライ、そこにいた! カツミ、クールビューティー!」
びゅーてぃー? 興奮しておかしなことを言い出すライナスを、俺は唖然と見つめてしまう。
辻口が苦笑しなら「落ち着けー」とライナスの背を叩き、鎮めてから俺に向き直った。
「つまりライナスはお前の塗りに惚れ込んで、お前の元で山ノ中漆器を学び――」
「無理だ。他を当たってくれ」
「一瞬でも考えてくれよー」
人嫌いの俺が教える? 地元民相手ですら上手く交流できない時があるのに、海外の人間に教えるなんて不可能だ。俺の心が耐えられん。
ハァ、と大きく息をついて俺は辻口を睨む。
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