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十五話 覇者
鼓舞の言葉
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◇ ◇ ◇
城の広場に、数千の兵たちが一同に並ぶ。
志馬威の元に送り込む先行隊だ。いくら人材の層が厚く、数多の兵を動かすことができるとしても、唐突に主城の中に兵が送り込まれたとなれば、対応は難しいはず。
俺は城への階段の中ほどに立ち、彼らを見渡す。
階下には志馬威攻めの大将を務める羽勳と、彼を補佐する表涼。それに他の将たちも控えている。
彼らの目はいずれも緊張はあるものの、怖気づいてはいない。
戦場に降り立った瞬間に敵へ斬り込み、その切っ先を志馬威に突きつけようという気概が見て取れた。
ここに残る俺ができることは、彼らを鼓舞することだけ。
大きく息を吸い込み、腹に力を入れ、声に心の芯から込み上げるものを乗せる。
「皆、今日この日まで俺と共に戦ってくれたこと、感謝している」
遠くの者にまで聞こえるよう、声を大きくして伝える。
これだけの人数がいるにも関わらず、雑音はなく、静けさが広がる中で俺の声はよく通った。
「これから俺は、この世界の覇者になるべく志馬威に挑む。負ければ二度はない。すべてを失うか、覇王となるか……もう引き返すことはできない」
一度息をつく。己の鼓動が脈打ち、体内を震わせるのが分かる。
間もなく戦が始まる。
本気の華侯焔と向き合い、勝たなければいけない。
少しでも冷静になってしまえば、力の差に呑まれて動けなくなりそうだ。
もう華侯焔は待ってはくれない。
絶対に負けはしないと胸の奥に熱を灯し、俺は体の中にこれでもかと空気を取り込み、声と共に吐き出す。
「今日、すべてを出し尽くして欲しい。力の温存も、明日のことも、何も考えなくていい。ただ、今だけに力を注いでくれ」
そして、華侯焔に届けるつもりで、俺は決意を吼えた。
「俺は、この世界の覇王になる!」
口に出した瞬間、兵たちがオォォォォーッ! と声を上げる。
辺りがビリビリと震える。一瞬で熱気が立ち込め、その熱が俺の体の芯まで届く。
誰もが俺の鼓舞に沸き立つ中、羽勳が俺を見上げながら拝手する。
「そのお言葉、心待ちにしておりました。必ず我らと同胞たちとで志馬威を追い詰めてみせます!」
「頼りにしてるぞ。お互いに本懐を遂げよう」
俺は『至高英雄』の覇者。この世界の住人に変装している羽勳たち魔物は、志馬威に囚われている魔王の奪還。
目的は違うが、お互いが協力すれば利は大きい。羽勳たちにとっても、これが千載一遇の好機だ。
目に力を込め、鼓舞で熱くなった眼差しを俺にぶつけながら羽勳は「はい!」と応えてくれた。
城の広場に、数千の兵たちが一同に並ぶ。
志馬威の元に送り込む先行隊だ。いくら人材の層が厚く、数多の兵を動かすことができるとしても、唐突に主城の中に兵が送り込まれたとなれば、対応は難しいはず。
俺は城への階段の中ほどに立ち、彼らを見渡す。
階下には志馬威攻めの大将を務める羽勳と、彼を補佐する表涼。それに他の将たちも控えている。
彼らの目はいずれも緊張はあるものの、怖気づいてはいない。
戦場に降り立った瞬間に敵へ斬り込み、その切っ先を志馬威に突きつけようという気概が見て取れた。
ここに残る俺ができることは、彼らを鼓舞することだけ。
大きく息を吸い込み、腹に力を入れ、声に心の芯から込み上げるものを乗せる。
「皆、今日この日まで俺と共に戦ってくれたこと、感謝している」
遠くの者にまで聞こえるよう、声を大きくして伝える。
これだけの人数がいるにも関わらず、雑音はなく、静けさが広がる中で俺の声はよく通った。
「これから俺は、この世界の覇者になるべく志馬威に挑む。負ければ二度はない。すべてを失うか、覇王となるか……もう引き返すことはできない」
一度息をつく。己の鼓動が脈打ち、体内を震わせるのが分かる。
間もなく戦が始まる。
本気の華侯焔と向き合い、勝たなければいけない。
少しでも冷静になってしまえば、力の差に呑まれて動けなくなりそうだ。
もう華侯焔は待ってはくれない。
絶対に負けはしないと胸の奥に熱を灯し、俺は体の中にこれでもかと空気を取り込み、声と共に吐き出す。
「今日、すべてを出し尽くして欲しい。力の温存も、明日のことも、何も考えなくていい。ただ、今だけに力を注いでくれ」
そして、華侯焔に届けるつもりで、俺は決意を吼えた。
「俺は、この世界の覇王になる!」
口に出した瞬間、兵たちがオォォォォーッ! と声を上げる。
辺りがビリビリと震える。一瞬で熱気が立ち込め、その熱が俺の体の芯まで届く。
誰もが俺の鼓舞に沸き立つ中、羽勳が俺を見上げながら拝手する。
「そのお言葉、心待ちにしておりました。必ず我らと同胞たちとで志馬威を追い詰めてみせます!」
「頼りにしてるぞ。お互いに本懐を遂げよう」
俺は『至高英雄』の覇者。この世界の住人に変装している羽勳たち魔物は、志馬威に囚われている魔王の奪還。
目的は違うが、お互いが協力すれば利は大きい。羽勳たちにとっても、これが千載一遇の好機だ。
目に力を込め、鼓舞で熱くなった眼差しを俺にぶつけながら羽勳は「はい!」と応えてくれた。
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こんにちは天岸さん、読みに参りました〜(*^^*)
まだ序盤なのですが世界観に引き込まれます、華侯焔がかっこいい……
情景が生き生きと目に浮かびます〜、真面目で初心な誠人くんが翻弄されてるの、によによします〜♡
そして筋肉! 男らしさ全開で、これぞBLの醍醐味って感じがします(*^^*)
また時間を見つけて読み進めたいですー!
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