337 / 345
十五話 覇者
誠人の判断
しおりを挟む
そういえば、昂命は志馬威と出会うまでは不遇だったと聞いている。
加えて志馬威から良いように利用されているような印象を受ける。動揺したり苦しんだりした時に、寄り添ってもらえたことがないかもしれない。
思わずジッと昂命を見つめていると、勝ち誇った笑みで見返された。
「何か文句でも? オレは志馬威様の軍が来るまで、ここで過ごさせてもらうから。食事はちゃんと用意してもらうよ。顔鐡を飢えさせたくないでしょ?」
確かに味方である顔鐡はもちろん、捕虜である昂命も飢えさせる訳にはいかない。
暴れられないだけ良いのかもしれないと考えていると、おもむろに表涼が部屋の結界に近づき、優美な手を伸ばした。
「結界はオレにしか解けないよ。どうにかしようなんて考えないほうが――」
「……なるほど、才明様が教えて下さった通りですね。目に意識を集中させると、魔力の継ぎ目や綻びが見えます。この辺りなんか、指で押したら解けそうな……」
ブツブツと言いながら表涼は人差し指で結界に触れる。
すべてを弾くはずの結界に、表涼の指が穴を突くようにスッと入り込む。
そして指を下げると――スゥゥゥゥ、と結界が割れて穴が開いていった。
まったく予期していなかったのか、昂命の目が大きく見開かれた。
「な……っ!? そんなにあっさりと結界を破るなんて!」
「フフ、私も驚いていますよ。こんな力が私に備わっていたなんて……やはり私は特別な存在なようです」
驚いたと言いながらも余裕のある表涼の態度に、才明が重なって見えてしまう。もしかすると交渉事を才明から教わったのかもしれない。
これも華侯焔攻略のために才明が打った一手なのだろうか。
ただ向き合って戦うしか考えられない俺に、才明や表涼のような存在の支えは本当に心強い。
内心感謝を覚えていると、表涼が首を捻って俺を見た。
「領主様、いかがなさいますか? どのようなご意見でも従います」
涼しい顔をする表涼とは対象的に、結界が通じないと知って昂命は悔しげに顔をしかめる。
周りでは太史翔たちが殺気立ち、俺が昂命を取り押さえて顔鐡を救う命を出すのを待ち構えている。
渦中の顔鐡は、瞳だけを動かして俺たちや昂命を交互に見て、どうすべきかと考えているようだ。
顔鐡の様子に気づいた瞬間、俺は小さく頷いた。
「皆、思うことはあると思うが、昂命の件は顔鐡の判断に任せたい」
ザワ、と。この場にいる俺以外の人間が驚き、動揺を見せる。
一番驚いていたのは昂命だった。
加えて志馬威から良いように利用されているような印象を受ける。動揺したり苦しんだりした時に、寄り添ってもらえたことがないかもしれない。
思わずジッと昂命を見つめていると、勝ち誇った笑みで見返された。
「何か文句でも? オレは志馬威様の軍が来るまで、ここで過ごさせてもらうから。食事はちゃんと用意してもらうよ。顔鐡を飢えさせたくないでしょ?」
確かに味方である顔鐡はもちろん、捕虜である昂命も飢えさせる訳にはいかない。
暴れられないだけ良いのかもしれないと考えていると、おもむろに表涼が部屋の結界に近づき、優美な手を伸ばした。
「結界はオレにしか解けないよ。どうにかしようなんて考えないほうが――」
「……なるほど、才明様が教えて下さった通りですね。目に意識を集中させると、魔力の継ぎ目や綻びが見えます。この辺りなんか、指で押したら解けそうな……」
ブツブツと言いながら表涼は人差し指で結界に触れる。
すべてを弾くはずの結界に、表涼の指が穴を突くようにスッと入り込む。
そして指を下げると――スゥゥゥゥ、と結界が割れて穴が開いていった。
まったく予期していなかったのか、昂命の目が大きく見開かれた。
「な……っ!? そんなにあっさりと結界を破るなんて!」
「フフ、私も驚いていますよ。こんな力が私に備わっていたなんて……やはり私は特別な存在なようです」
驚いたと言いながらも余裕のある表涼の態度に、才明が重なって見えてしまう。もしかすると交渉事を才明から教わったのかもしれない。
これも華侯焔攻略のために才明が打った一手なのだろうか。
ただ向き合って戦うしか考えられない俺に、才明や表涼のような存在の支えは本当に心強い。
内心感謝を覚えていると、表涼が首を捻って俺を見た。
「領主様、いかがなさいますか? どのようなご意見でも従います」
涼しい顔をする表涼とは対象的に、結界が通じないと知って昂命は悔しげに顔をしかめる。
周りでは太史翔たちが殺気立ち、俺が昂命を取り押さえて顔鐡を救う命を出すのを待ち構えている。
渦中の顔鐡は、瞳だけを動かして俺たちや昂命を交互に見て、どうすべきかと考えているようだ。
顔鐡の様子に気づいた瞬間、俺は小さく頷いた。
「皆、思うことはあると思うが、昂命の件は顔鐡の判断に任せたい」
ザワ、と。この場にいる俺以外の人間が驚き、動揺を見せる。
一番驚いていたのは昂命だった。
1
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる