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十四話 決戦に向けて

二人に支えられて

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 ――目元に柔らかな感触と熱い吐息がして、目が覚める。

 未だに重たいまぶたを震わせながら開ければ、二つの顔が俺を覗き込んでいた。

「おはようございます、誠人様」

 すでに文官の服に着替えて身なりを整えた才明が、糸目を孤にして微笑む。
 昨夜のことで満足したのか、やけにスッキリとした顔をしている。それと同時に、包み込むような優しい眼差しで俺をうかがっていた。

 そして才明とは対象的に、顔が近い英正は心配そうに眉をひそめている。

「大丈夫ですか、誠人様? 何か辛い夢でも見られたのでは?」

 心なしか英正の匂いが濃い。もしかすると寝ずの番をしていたのかもしれない。

 なぜそんなことを言ってくるのだろうかと不思議に思っていると、才明の手が俺の顔に伸び、長い指で目元を拭ってきた。

「誠人様とは心が繋がっておりますので、合わせ技を発動させずとも、心の動きがなんとなく伝わってくるのですよ。それに、寝ながら涙を零されていましたし」

 不意に、ついさっきまで見ていた夢が脳裏に浮かぶ。

 夢の中で華侯焔と再会した。
 この身体は何もされていなくても、夢で重ねられた唇の感触が鮮明だ。ほのかに甘い疼きと鋭い痛みが、胸の奥に広がる。

 もうどうしようもなく囚われていることを痛感しながら、俺は身体を起こし、才明と英正に笑いかけた。

「心配かけて済まない。大丈夫だ」

 一瞬、夢のことを言うべきかと躊躇してしまう。口に出せば俺も英正たちも動揺して、これからの戦いに影響する気がして――。

 しかし、前に進むために俺は秘めない道を選んだ。

「……夢に華侯焔が出てきた。中断してセーブしないと、取り返しのつかない身体になると」

 俺の言葉に英正が強張り、息を呑む。
 案の定動揺を見せる英正とは違い、才明は肩をすくめて呆れた息をついた。

「今さら忠告ですか? まったくあの御仁は、どこまでも惑わせてきますね。これで実は志馬威を欺くための演技だったなんて言い出したら、非常にありがたいのですが」

「いや、それはない。最短で俺を倒しにかかる気だ。何が何でもゲームを中断させたいようだったから」

 裏切る形になっているが、華侯焔が俺に向けるものに変わりはない。
 本気で俺を求めている。だから俺の望みに反してでも、俺を奪おうとしている。

 想いが伴っているからこそ容赦がない。だから困ったと頭を抱えながらも、俺は華侯焔に怒りを覚えることができない。

 ふと俺が息をつくと、英正が正面から俺を抱き締めてきた。

「絶対に誠人様を奪わせはしません! この命に替えても、覇者への道を駆けられる誠人様をお守りします」

 揺らぎそうな心ごと、英正の腕が強く締め付けてくる。
 俺を求める気持ちは同じでも、俺に尽くすために生まれた英正は、どこまでいっても華侯焔とは真逆だ。

 求めながら奪わない腕を愛おしく思いながら、俺は英正の背に手を回す。

「ありがとう。頼りにしているぞ、英正」

「誠人様……はいっ! 必ず期待に応えてみせます」

 忠誠と恋情を溢れさせた英正と抱き合いながら、その肩の向こうに見える才明と俺は目が合う。

 昨夜はあれだけ執拗に抱いたのに、今は英正に譲り、一歩引いて俺を見ている。糸目の笑みは相変わらずで、掴みどころがない。

 それでも才明の心はよく見えている。
 何があっても俺たちの心は何も変わらない、という確固たる自信。だからこそ心に余裕があり、英正に身も心も許す俺を受け入れられている。

 彼らに支えてもらっていることに感謝を覚えながら、俺は腹に力を込め、寝起きの身体に芯を通した。

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