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十四話 決戦に向けて
白鐸の正体
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◇ ◇ ◇
俺の近くにいない時、どこに行き、何をしているのか――きっと俺に代わって国造りの指示を出し、俺が戦いに専念できるようにしているだろうと思っていた。
たぶん間違ってはいないはず。
ただ、それ以上は俺から踏み入ることはなく、目の前のすべきことや華侯焔たちへの褒美で必死だった。
余裕がなく仕方のないこととはいえ、視野が狭かったと思う。
改めて探そうとした時、居る可能性のある所をひとつも挙げることができなかったのだから。
幸い、前に比べて今は目立つ容姿をしている。
城下町に出て人々に聴き込んでいけば、どこへ向かったかはすぐに分かった。
居城よりも東にある、ひと際高い山。
一刻も早く話を聞きたくて、俺は道なき道を駆け上がり、頂上を目指していく。
山に足を踏み入れた時点で、ここにいる気配が伝わってきた。
華侯焔や英正、才明のような関係ではなかったはずなのに、近づくほどに思いが流れ込んでくる。
なぜ今まで気づかなかったのか、不思議で仕方がなかった。
こんなギリギリまで何も分からなかった自分が情けない。
次第に辺りは靄がかり、俺の行く手を阻む。
それでも強まっていく気配が俺を頂上に導いてくれる。
走って、走って、転びそうになりながら靄を突っ切っていけば、赤く焼けた空が俺を迎えてくれた。
今にも沈みそうな夕日が、頂上に居座る大きな白い身体を照らす。
一旦立ち止まり、俺は呼吸を整える。
そして意を決して声をかけた。
「いつも姿が見えない時はここにいたのか、白鐸?」
俺が尋ねると、白鐸の身体がビクッと跳ねる。しばらく無言だったが、観念したようにもぞもぞと上半分を捻る。毛を除ければ見えるのだろうか、どうやら顔はちゃんとあるらしい。
「……はいー。誠人サマのお役に立てるよう、ここで神獣の格を高めるために修行していましたー」
日頃は騒々しく高めの声が大人しい。何かを観念したようで、心なしか怯えているように感じる。
まるで今から怒られることを悟り、ビクビクと怯える子どものようだ。
色々と言いたいことはあった。なぜこんなことをしたと怒りたい気持ちもある。
しかしそれ以上に、安堵の気持ちが強かった。
「ずっと俺を支えてくれていたことに気づかなくてすまなかった……生きていてくれて、本当に良かった」
「……気づいちゃったんですねー」
「ああ。ようやく見つけたぞ、坪田」
俺の近くにいない時、どこに行き、何をしているのか――きっと俺に代わって国造りの指示を出し、俺が戦いに専念できるようにしているだろうと思っていた。
たぶん間違ってはいないはず。
ただ、それ以上は俺から踏み入ることはなく、目の前のすべきことや華侯焔たちへの褒美で必死だった。
余裕がなく仕方のないこととはいえ、視野が狭かったと思う。
改めて探そうとした時、居る可能性のある所をひとつも挙げることができなかったのだから。
幸い、前に比べて今は目立つ容姿をしている。
城下町に出て人々に聴き込んでいけば、どこへ向かったかはすぐに分かった。
居城よりも東にある、ひと際高い山。
一刻も早く話を聞きたくて、俺は道なき道を駆け上がり、頂上を目指していく。
山に足を踏み入れた時点で、ここにいる気配が伝わってきた。
華侯焔や英正、才明のような関係ではなかったはずなのに、近づくほどに思いが流れ込んでくる。
なぜ今まで気づかなかったのか、不思議で仕方がなかった。
こんなギリギリまで何も分からなかった自分が情けない。
次第に辺りは靄がかり、俺の行く手を阻む。
それでも強まっていく気配が俺を頂上に導いてくれる。
走って、走って、転びそうになりながら靄を突っ切っていけば、赤く焼けた空が俺を迎えてくれた。
今にも沈みそうな夕日が、頂上に居座る大きな白い身体を照らす。
一旦立ち止まり、俺は呼吸を整える。
そして意を決して声をかけた。
「いつも姿が見えない時はここにいたのか、白鐸?」
俺が尋ねると、白鐸の身体がビクッと跳ねる。しばらく無言だったが、観念したようにもぞもぞと上半分を捻る。毛を除ければ見えるのだろうか、どうやら顔はちゃんとあるらしい。
「……はいー。誠人サマのお役に立てるよう、ここで神獣の格を高めるために修行していましたー」
日頃は騒々しく高めの声が大人しい。何かを観念したようで、心なしか怯えているように感じる。
まるで今から怒られることを悟り、ビクビクと怯える子どものようだ。
色々と言いたいことはあった。なぜこんなことをしたと怒りたい気持ちもある。
しかしそれ以上に、安堵の気持ちが強かった。
「ずっと俺を支えてくれていたことに気づかなくてすまなかった……生きていてくれて、本当に良かった」
「……気づいちゃったんですねー」
「ああ。ようやく見つけたぞ、坪田」
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