318 / 345
十四話 決戦に向けて
鉄工翁の事情
しおりを挟む
鉄工翁は部屋に入ると、さっそく荷袋を下ろして中の物を取り出す。
ゴン、と布越しに硬く鈍い音が鳴る。いずれも金属製の物らしい。
俺たちが覗き込む中、鉄工翁は手際よく包んだ布を外していく。フッと懐かしむような、少し寂しげな微笑を浮かべながら語り出す。
「ある御仁から、この日のために武器を作って欲しいと頼まれておりまして……金はいくらでもやるから、最高の武器をこしらえてくれ、と」
思わず俺の心臓がドクンと大きく脈打つ。
いったい誰が依頼したのだと尋ねるよりも先に、鉄工翁が答えてくれる。
「依頼主からは、正体を教えないで欲しいと頼まれております。どうかご勘弁を」
「……分かった、誰かは聞かない。ただ言える範囲で構わない。良ければ依頼された当時のことを教えて欲しい」
鉄工翁は俺を見上げて目を合わせると、わずかに目を細めた。
「そうですな……本来ワシは平野ではなく、ここより遥か北東の寒冷地の洞窟に住んでおりましてな。そこで武具をこしらえておりました。中でも一番のお得意様は、どんな武器も使いこなせてしまわれる天才で、材料を渡してワシになんでも作れとワガママを――ああ失礼。つい無駄な思い出話を……」
「いや、構わない。むしろそれも含めて聞きたい」
「分かりました。正体は明かすなとしか言われておりませぬから、思い出話は好きに語らせて頂きましょうぞ……ワシはただの鍛冶師でしたが、彼の者のおかげで希少な武具を作る機会を多く与えられ、この世界において特別な鍛冶師となることができました。今のワシがあるのは、彼の者のおかげ」
にこりと笑い、鉄工翁の目尻のシワが深くなる。親しみを感じさせる気配に、彼の言葉が偽りではなく、心から感謝を覚えていることが伝わってくる。
ふと何かを思い出したのか、鉄工翁が小さく吹き出す。
「いつも寒い寒いと言っておりましたなあ。白い毛皮を身体に巻いて、ワシから見れば着込みすぎな格好で……ついには、寒すぎるから平野に下りて来いとワシを抱えて、強引に別の土地に連れて行かれました。それが今のこの地です」
「北東の寒冷地からここまでとなると、かなり移動したな。平野に下りるだけなら、山のふもとすぐ近くでもいいように思うが」
俺が疑問に思ったことを口にすると、鉄工翁は小刻みに頷いた。
「まったくもってその通り! ワシもさすがにやりすぎだと怒ったのですが、彼の者はこの地でなければいけないと頭を下げてきました――そして、ワシにこの日が来るまでに最高の武器を作り上げ、領主様に届けて欲しいと依頼してきたのです」
ゴン、と布越しに硬く鈍い音が鳴る。いずれも金属製の物らしい。
俺たちが覗き込む中、鉄工翁は手際よく包んだ布を外していく。フッと懐かしむような、少し寂しげな微笑を浮かべながら語り出す。
「ある御仁から、この日のために武器を作って欲しいと頼まれておりまして……金はいくらでもやるから、最高の武器をこしらえてくれ、と」
思わず俺の心臓がドクンと大きく脈打つ。
いったい誰が依頼したのだと尋ねるよりも先に、鉄工翁が答えてくれる。
「依頼主からは、正体を教えないで欲しいと頼まれております。どうかご勘弁を」
「……分かった、誰かは聞かない。ただ言える範囲で構わない。良ければ依頼された当時のことを教えて欲しい」
鉄工翁は俺を見上げて目を合わせると、わずかに目を細めた。
「そうですな……本来ワシは平野ではなく、ここより遥か北東の寒冷地の洞窟に住んでおりましてな。そこで武具をこしらえておりました。中でも一番のお得意様は、どんな武器も使いこなせてしまわれる天才で、材料を渡してワシになんでも作れとワガママを――ああ失礼。つい無駄な思い出話を……」
「いや、構わない。むしろそれも含めて聞きたい」
「分かりました。正体は明かすなとしか言われておりませぬから、思い出話は好きに語らせて頂きましょうぞ……ワシはただの鍛冶師でしたが、彼の者のおかげで希少な武具を作る機会を多く与えられ、この世界において特別な鍛冶師となることができました。今のワシがあるのは、彼の者のおかげ」
にこりと笑い、鉄工翁の目尻のシワが深くなる。親しみを感じさせる気配に、彼の言葉が偽りではなく、心から感謝を覚えていることが伝わってくる。
ふと何かを思い出したのか、鉄工翁が小さく吹き出す。
「いつも寒い寒いと言っておりましたなあ。白い毛皮を身体に巻いて、ワシから見れば着込みすぎな格好で……ついには、寒すぎるから平野に下りて来いとワシを抱えて、強引に別の土地に連れて行かれました。それが今のこの地です」
「北東の寒冷地からここまでとなると、かなり移動したな。平野に下りるだけなら、山のふもとすぐ近くでもいいように思うが」
俺が疑問に思ったことを口にすると、鉄工翁は小刻みに頷いた。
「まったくもってその通り! ワシもさすがにやりすぎだと怒ったのですが、彼の者はこの地でなければいけないと頭を下げてきました――そして、ワシにこの日が来るまでに最高の武器を作り上げ、領主様に届けて欲しいと依頼してきたのです」
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる