315 / 345
十四話 決戦に向けて
形状記憶の功罪
しおりを挟むいつの間にか眠りに落ち、俺は漆黒の世界に佇む。
『このまま続けますか? 中断しますか?』
目の前に白く輝く文字が現れ、俺に選択を迫ってくる。
今までは中断して一度現実に戻っていたが――。
俺は迷わず続けることを選ぼうと、手を伸ばしかける。その時。
「誠人サマ、一度戻られることをオススメしますよー」
どこからともなく白鐸の声がして辺りを見渡す。
すると、いつの間にか白鐸が隣に現れていた。大きな毛玉が軽く曲がり、どこかシュンとなっているように見える。
「どうしてだ、白鐸?」
「……もう真実を知られたからお話しちゃいますねー。領主がこっちの世界で受けたキズとかは、あっちに戻ることで消えるんですけど……戻らずに続けると、治り切らずに残っちゃうんですー」
いつもの明るい声はなく、申し訳無さそうに白鐸が教えてくれる。
少し考えて、俺は首を傾げながら白鐸に尋ねた。
「つまり、もし片腕を斬られて失っても、現実に戻れば腕は元に戻るということか」
「そういうことですー。魔法の力で世界を行き来すると、形状記憶でよみがえるみたいなんですー。でも長く戻らないと、腕を失ったことを身体が記憶してしまって、失ったままになっちゃうんですー」
言いにくそうにもじもじとしてから、白鐸はぼそりと話を続ける。
「一度戻らないと、本当に取り返しがつかなくなりますからー……抱かれたくてたまらない身体になって、現実の華侯焔に抗えなくなりますよー。ただでさえ執拗に抱かれて、形状記憶が追いつかないのにー」
一切からかいのない白鐸の声に、俺は固まってしまう。
もう既に俺の身体は現実の華侯焔――東郷さんを覚えてしまった。
会えばさらに堕とされ、どちらの世界でも抗えなくなると分かっていても、望まれれば俺は東郷さんに応えてしまう。真実を知った以上、あの人を放っておくことなどできない。
そうか。だから『至高英雄』でも現実でも、俺に過度な快楽を与えてきたのか。俺を絶対に逃さないために――。
脳裏に東郷さんがよぎり、胸が締め付けられる。
どうしても罠にはめられた、裏切られたという怒りではなく、彼に応え切れない自分が悔しくてたまらない。
東郷さんに、すべてを背負うと約束した。
保身や嘆きに走る時間すら惜しくて、俺は白鐸に告げた。
「形状記憶が働いて、ゲーム再開前の身体に戻ろうとするということは、ここで強くなった経験が薄まるということなのだろ? それならなおのこと、覇者になるまで続ける」
「ええっ!? ダ、ダメですよー! こっちにあるものが、あっちに戻った時になくて、欲しくてもないからーって頭がおかしくなっちゃいますし!」
行為に使う際の軟膏のことを言っているのだろう。
催淫の効果があると聞いている。使わねば受け入れることはできないから、使わざるを得ない。快楽の中毒性に身体は逆らえなくなる――きっとこれも甘く見てはいけないのだろうとは思う。
しかし、それでも俺は保身に走ることはできなかった。
「分かっている。だから一気に志馬威攻略を進めていきたい。強さを身に着け、手放さないまま挑んでみせる」
「誠人サマ……」
「保身で勝てる相手じゃない。だから――」
「……分かりましたー。ワタシも腹を括りましょう」
白鐸の身体がぼんやりと光り出し、暗闇の中を浮上していく。
思わず見上げる俺に、白鐸は言葉を残してくれた。
「どうか、本当のワタシに気づいて下さいー。そうすればきっと――」
白鐸が遠ざかるにつれて、俺の意識も消えていく。
肝心な言葉を聞き取る前に、ぷつり、と思考も感情も途絶えてしまった。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説




美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。


【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる