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十四話 決戦に向けて
英正が抱えていたこと
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◇ ◇ ◇
バタン、と扉を閉めた直後。
俺は英正の腕に捕らわれ、抱き包まれた。
「誠人様……っ」
息を詰まらせながら、英正は正面からギュウギュウと俺を抱き締める。鈍い痛みすら感じて息苦しいが、それ以上に英正の想いが伝わってきて、俺はしたいようにさせる。
英正が次の言葉を紡ごうとして、口が動かず息をつく――何度も繰り返して、ようやく次の言葉が出てきた。
「貴方を取り戻せて、本当に、良かったです」
「心配かけさせたな。助けに来てくれて感謝する、英正」
背中に手を回し、俺は宥めるように英正の背を撫でる。
前よりも英正に筋肉がつき、身体が一回り大きくなっている。少しだけ華侯焔の体つきに近くなった気がして、俺の胸がチクリと痛む。
思わずギュッと腕に力を込めて抱き締め返すと、何かを察したように英正が俺の頭を抱き、懐に寄せてくる。
合わせ技をこなすと、互いの心がより深く見えてしまう。
見えてしまった英正の本心を思い出し、たくましくなった胸の中で俺は口を開く。
「……英正は気づいていたんだな。俺が覇者になれば、自分が消えてしまうことを」
ある時を境に、英正の表情や態度に陰を感じるようになった。
てっきり覇王になれば『至高英雄』をプレイしなくなり、今までのように会えなくなることからの憂いだと思っていた。だが真実と英正の心を知り、もっと深刻な悩みを抱え続けてきたことに、ようやく気づいた。
俺の指摘に英正が身を硬くし、小さく震え出す。
「いつか別れの時が来ることは、最初から覚悟していました。それでも誠人様が覇王になるために、少しでもお力になれたなら良いと……ですが、存在が消えるとは思いもしなくて……」
「なぜ気づいたんだ?」
「同盟を結ぶための使者になった時、同盟を決意された澗宇様と侶普様から教えて頂きました。誠人様が覇者になるということが、どういうことなのか――怖くて、怖くて、仕方がありませんでした」
ただの別れではなく、死別。
もし俺が英正だったならば、正気を保ちながらここまで戦えなかっただろうと思う。
誰だって死ぬのは怖い。尽くし続けて悲願を果たした先に死が待っていると知って、喜んで戦い続けられる者などいないはず。
それなのに英正は何も知らない俺の憂いや重荷にならないよう、言葉には出さず、ずっと秘め続けてきた。もし真実を知らず、合わせ技で心を見せ合うことにならなければ、覇者となったその時に消滅の事実を突きつけられただろう。
恐れを持ちながら秘密を抱え、俺のために戦い続けている英正の強さは、俺の比ではない。
本当に俺は配下に恵まれている。この忠臣を消したくはない。
心からそう思うからこそ、昂命を捕まえようとした時の行動は許せなかった。
「俺が覇者になれば消滅すると分かっていたから、昂命を本気で殺そうとしたな? そうすればこの世界が消えて、俺の目的が果たせると思って……」
バタン、と扉を閉めた直後。
俺は英正の腕に捕らわれ、抱き包まれた。
「誠人様……っ」
息を詰まらせながら、英正は正面からギュウギュウと俺を抱き締める。鈍い痛みすら感じて息苦しいが、それ以上に英正の想いが伝わってきて、俺はしたいようにさせる。
英正が次の言葉を紡ごうとして、口が動かず息をつく――何度も繰り返して、ようやく次の言葉が出てきた。
「貴方を取り戻せて、本当に、良かったです」
「心配かけさせたな。助けに来てくれて感謝する、英正」
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前よりも英正に筋肉がつき、身体が一回り大きくなっている。少しだけ華侯焔の体つきに近くなった気がして、俺の胸がチクリと痛む。
思わずギュッと腕に力を込めて抱き締め返すと、何かを察したように英正が俺の頭を抱き、懐に寄せてくる。
合わせ技をこなすと、互いの心がより深く見えてしまう。
見えてしまった英正の本心を思い出し、たくましくなった胸の中で俺は口を開く。
「……英正は気づいていたんだな。俺が覇者になれば、自分が消えてしまうことを」
ある時を境に、英正の表情や態度に陰を感じるようになった。
てっきり覇王になれば『至高英雄』をプレイしなくなり、今までのように会えなくなることからの憂いだと思っていた。だが真実と英正の心を知り、もっと深刻な悩みを抱え続けてきたことに、ようやく気づいた。
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「いつか別れの時が来ることは、最初から覚悟していました。それでも誠人様が覇王になるために、少しでもお力になれたなら良いと……ですが、存在が消えるとは思いもしなくて……」
「なぜ気づいたんだ?」
「同盟を結ぶための使者になった時、同盟を決意された澗宇様と侶普様から教えて頂きました。誠人様が覇者になるということが、どういうことなのか――怖くて、怖くて、仕方がありませんでした」
ただの別れではなく、死別。
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誰だって死ぬのは怖い。尽くし続けて悲願を果たした先に死が待っていると知って、喜んで戦い続けられる者などいないはず。
それなのに英正は何も知らない俺の憂いや重荷にならないよう、言葉には出さず、ずっと秘め続けてきた。もし真実を知らず、合わせ技で心を見せ合うことにならなければ、覇者となったその時に消滅の事実を突きつけられただろう。
恐れを持ちながら秘密を抱え、俺のために戦い続けている英正の強さは、俺の比ではない。
本当に俺は配下に恵まれている。この忠臣を消したくはない。
心からそう思うからこそ、昂命を捕まえようとした時の行動は許せなかった。
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