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十三話 裏切りの常習犯
どれだけ厳しくとも
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はっきりと才明が意思を告げた瞬間、俺の胸の奥に温かなものが注がれていく。
精神が、心が、才明と繋がっていく感触。
策を仕込み、相手を翻弄する時は大胆さを見せるというのに、俺に向けられているのはささやかで優しい献身だ。
英正よりも控えめな、それでも俺を守り包もうとする気配。
本心をなかなか見せず、掴みどころがないのは、慎重さゆえのことだと伝わってくる。
才明が高く手をかざすと、他の者たちにも同様の白緑の光が灯っていく。
華侯焔だけが何も宿さぬ中、才明は俺を立たせ、目配せした。
「誠人様、どうかお力添えを」
軽く会釈され、俺は竹砕棍をひと振りする。
ほんの小さな炎舞撃を放つぐらいの軽い力を放てば、俺の陣営すべての身体が空に浮かんだ。
「ごきげんよう、華侯焔……飛翔瞬着」
静かに才明が呟いた瞬間、俺たちの身体が瞬く間に透けていく。
消える間際、俺を見上げる華侯焔と目が合う。
捕らえたかった獲物が消えそうだというのに、その瞳はやけに眩しげに細まり、口元は柔らかな笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
目の前が一瞬暗くなり、すぐ視界が戻る。
辺りは戦場になっていた荒野ではなく、まだ見慣れていない俺の居城内の広場だった。
体力を使い果たしていた英正も羽勳も、華侯焔にやられていた白鐸も、起き上がれないながらもここにいる。兵士たちもきょとんとしながら、辺りを見渡している。
見たところ、あの場にいた味方全員が揃っているらしい。
全体を見渡してから、才明は「ふむ」と口元に手を当てた。
「なるほど。合わせ技を習得する際、武将側が望んだ力を手に入れることができるのですか。全軍を望んだ場所に移動できるなんて、こんな都合のいい能力を得られるとは――」
独り言を垂れ流した後、ふと才明が我に返って俺に微笑む。
「すみません、つい悪いクセが……誠人様、お体は大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。俺よりも英正たちを……」
目を向けると、近くにいた兵士たち英正と羽勳に声をかけたり、肩を貸して医務室へ向かおうとしているのが見える。
それなら俺は……と、白鐸の元へ駆けつけた。
「白鐸、大丈夫か?」
「……なんとか無事ですー。華侯焔のヤツ、遠慮ないんですからー」
横たわりながらも、白鐸の声ははっきりとしている。心の通った、騒げば耳が痛くなる声。
これなら死ぬことはなさそうだとホッとしてから、俺は白鐸を抱き上げた。
「床で寝るのは辛いだろ? 俺の寝台に運ぶから、今はしっかり休んで身体を癒やしてくれ」
「誠人サマぁ……本当にお優しいんですからー」
白鐸が小さく笑うと、その身体が急に軽くなる。
土埃でざらついていた毛の感触が消え、いつの間にか俺の腕を離れて白鐸は虚空にフラフラと浮かんでいた。
「ワタシは大丈夫ですー。誠人様がしっかり休まれて下さいー」
「待ってくれ。どこに行くんだ?」
「ちょっと考え事をー」
ゆっくりと俺から離れていこうとするが、不意に止まって言葉を置いていく。
「……ワタシは誠人サマに隠していることはありますが、絶対に裏切りませんからー。それだけは信じて下さいー」
責めないから、その隠し事を教えてくれないか?
そう言いたくなる気持ちを抑え、俺は遠のいていく白鐸を見送り続ける。
「白鐸の隠し事ですか。華侯焔の食事に下剤を入れていたとか、そんなくだらない内容なら良いのですがね」
俺の隣に並んで白鐸を見送りながら、才明がわずかに笑う。
しかし息をつくと、重たくなった声で呟く。
「どうにか退却できましたが、華侯焔が抜けた穴は大きいです。上手く立て直すことができるかどうか……」
志馬威と敵対することを決めてしまった上に、最強の将である華侯焔が寝返った。
すぐに志馬威から動きがあるだろう。
志馬威を討ち取り、覇者となることができるか――考える間でもなく、俺は声に出していた。
「できることをやる。それだけだ」
精神が、心が、才明と繋がっていく感触。
策を仕込み、相手を翻弄する時は大胆さを見せるというのに、俺に向けられているのはささやかで優しい献身だ。
英正よりも控えめな、それでも俺を守り包もうとする気配。
本心をなかなか見せず、掴みどころがないのは、慎重さゆえのことだと伝わってくる。
才明が高く手をかざすと、他の者たちにも同様の白緑の光が灯っていく。
華侯焔だけが何も宿さぬ中、才明は俺を立たせ、目配せした。
「誠人様、どうかお力添えを」
軽く会釈され、俺は竹砕棍をひと振りする。
ほんの小さな炎舞撃を放つぐらいの軽い力を放てば、俺の陣営すべての身体が空に浮かんだ。
「ごきげんよう、華侯焔……飛翔瞬着」
静かに才明が呟いた瞬間、俺たちの身体が瞬く間に透けていく。
消える間際、俺を見上げる華侯焔と目が合う。
捕らえたかった獲物が消えそうだというのに、その瞳はやけに眩しげに細まり、口元は柔らかな笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
目の前が一瞬暗くなり、すぐ視界が戻る。
辺りは戦場になっていた荒野ではなく、まだ見慣れていない俺の居城内の広場だった。
体力を使い果たしていた英正も羽勳も、華侯焔にやられていた白鐸も、起き上がれないながらもここにいる。兵士たちもきょとんとしながら、辺りを見渡している。
見たところ、あの場にいた味方全員が揃っているらしい。
全体を見渡してから、才明は「ふむ」と口元に手を当てた。
「なるほど。合わせ技を習得する際、武将側が望んだ力を手に入れることができるのですか。全軍を望んだ場所に移動できるなんて、こんな都合のいい能力を得られるとは――」
独り言を垂れ流した後、ふと才明が我に返って俺に微笑む。
「すみません、つい悪いクセが……誠人様、お体は大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。俺よりも英正たちを……」
目を向けると、近くにいた兵士たち英正と羽勳に声をかけたり、肩を貸して医務室へ向かおうとしているのが見える。
それなら俺は……と、白鐸の元へ駆けつけた。
「白鐸、大丈夫か?」
「……なんとか無事ですー。華侯焔のヤツ、遠慮ないんですからー」
横たわりながらも、白鐸の声ははっきりとしている。心の通った、騒げば耳が痛くなる声。
これなら死ぬことはなさそうだとホッとしてから、俺は白鐸を抱き上げた。
「床で寝るのは辛いだろ? 俺の寝台に運ぶから、今はしっかり休んで身体を癒やしてくれ」
「誠人サマぁ……本当にお優しいんですからー」
白鐸が小さく笑うと、その身体が急に軽くなる。
土埃でざらついていた毛の感触が消え、いつの間にか俺の腕を離れて白鐸は虚空にフラフラと浮かんでいた。
「ワタシは大丈夫ですー。誠人様がしっかり休まれて下さいー」
「待ってくれ。どこに行くんだ?」
「ちょっと考え事をー」
ゆっくりと俺から離れていこうとするが、不意に止まって言葉を置いていく。
「……ワタシは誠人サマに隠していることはありますが、絶対に裏切りませんからー。それだけは信じて下さいー」
責めないから、その隠し事を教えてくれないか?
そう言いたくなる気持ちを抑え、俺は遠のいていく白鐸を見送り続ける。
「白鐸の隠し事ですか。華侯焔の食事に下剤を入れていたとか、そんなくだらない内容なら良いのですがね」
俺の隣に並んで白鐸を見送りながら、才明がわずかに笑う。
しかし息をつくと、重たくなった声で呟く。
「どうにか退却できましたが、華侯焔が抜けた穴は大きいです。上手く立て直すことができるかどうか……」
志馬威と敵対することを決めてしまった上に、最強の将である華侯焔が寝返った。
すぐに志馬威から動きがあるだろう。
志馬威を討ち取り、覇者となることができるか――考える間でもなく、俺は声に出していた。
「できることをやる。それだけだ」
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