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十三話 裏切りの常習犯

戦いの歓喜

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 次第に華侯焔の顔が大きく笑みで崩れ、歓喜が溢れ出す。

 ずっと抑えていたことを、もう我慢しなくてもいい。
 そんな華侯焔の本音が伝わってきて、俺の身体から感覚が消える。

 血の気が引いた顔をしているだろう俺に、華侯焔は嬉々とした声で話す。

「こんな俺でも罪悪感はある。だから誠人にすべてを見せた上で、覇者を諦めてもらおうとしたんだ。それを誠人が受け入れても、生涯それを背負う気ではいたが……だが心のどこかで期待していたんだ。誠人なら俺の誘いを蹴ってくれると!」

 一歩、華侯焔が俺に近づく。隠しきれないただならぬ気配に、俺の馬が萎縮して後ずさる。

 このままでは戦えない。俺は馬を降り、首を撫でて宥めてから華侯焔と向き合う。

「ひとつ問いたい。これがずっと焔が思い描いていたことなのか?」

 俺の声に華侯焔が一瞬真顔になる。
 わずかに首を傾げて短く思案した後、肩をすくめた。

「どうだろうなあ。何度も仕掛けて、落胆して、試して……積み重ねてきた結果がこれだ。こんな理想が形になるなんて、夢にも思わなかった」

「理想なのか、これが?」

「ああ。本気をぶつけて戦える。一切の容赦なく、身も心も根こそぎ奪い取れる。安心しろ。誠人がどうなっても手放しはしない。俺のものだ」

 隠そうとしない華侯焔の執着心に、怖気づきそうになる。
 なのに緊張で大きく脈打ち、ざわついてしまう身体は甘さを孕んでしまう。

 ずっと戦いの中で振り向いてはくれないと感じていた強者が、俺だけを見て、全力で負かそうとしている。裏切られて悲しいはずなのに、華侯焔の歓喜が移ってしまったのか、俺の高揚が止まらない。

 存分に戦える。俺が死ぬ気で挑むことができる相手。

 ――気づくと俺は竹砕棍を構え、華侯焔に向かっていた。

「はぁっ!」

 高く跳び上がり、竹砕棍を振りかざす。
 動きが大きくなれば隙が出る。それを見逃す華侯焔ではない。

 分かっている。理解した上での行動。
 華侯焔が槍で俺の脇腹を打ち付けようとしてくる。

 素早く横目で動きを確かめ、俺は槍に向けて脚を伸ばす。

 ガッ。
 俺は足裏で槍の柄を蹴り、華侯焔の体幹を崩しながらもう一段高く跳ぶ。

 そうして華侯焔の真上から、竹砕棍を振り下ろした。

「炎舞撃、三連!」

 一瞬で華侯焔が三つの炎の渦に呑み込まれてしまう。

 それぞれ回りながら、三つ編みを編み込むような動きで炎の渦は華侯焔に絡みついていく。

 ブワッ、と突き上げる暴風に俺は飛ばされてしまうが――跳び上がった英正に抱き留められた。
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