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十三話 裏切りの常習犯

戦う覚悟

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 どうしてここに才明が?
 思いがけないことに呆然とする俺に、才明はわずかに安堵を見せながら駆け寄ってくる。

「しっかりと色々された後のようですが、身体は動かせますか? 意識は? 私が誰か分かりますか?」

「……問題ない、才明。動けるし、ちゃんと頭は起きている」

 乱れた敷布に裸の俺。隠しようがない事後の名残りを見せてしまい、思わず羞恥で目を逸してしまう。

 いつもならからかいの言葉でも言うのだろうが、才明は大きく息をつき、俺を強く抱き締めてきた。

「良かったです。貴方を華侯焔から奪われて、すべてが終わったかと……壊されていなくて何よりです。まだ誠人様のままなら、挽回できます」

「どういうことだ?」

「昨夜、華侯焔が謀反を起こし、誠人様を眠らせて居城から連れ去りました。最初から計画していたのでしょう。昂命の封魔の縄を解き、混乱を起こされ、足止めされましてね……初動が遅れて申し訳ありません」

 苦々しく謝罪を呟き、息を詰めた後。才明は話を続ける。

「白鐸のおかげで誠人様の居場所は分かりましたが、お助けしようと向かった先に志馬威の軍が待ち構えていて、現在交戦中です」

 ……そうか。これでもう、周りは認識してしまった。
 華侯焔が俺を裏切ったのだと。

 ショックを受けて落ち込んでなどいられない。
 俺は努めて冷静な声色で才明に尋ねる。

「戦況は?」

「先行していた英正が上手く持ち堪え、援軍の羽勳が到着し、今はこちらが有利に戦いを進めています。彼らの奮戦のお陰で、こうして敵の隙を突いて誠人様の元に来られたという次第です」

 英正と羽勳。この二人ならば、並大抵の相手なら問題なく蹴散らせる。

 だからこそ、なぜここに華侯焔がいないのか、という理由が頭に浮かぶ。

「急いでここを離れ、全軍撤退させる。今、華侯焔が出ているはずだ」

「……そうでしょうね。英正たちを相手にできるのは、華侯焔しかいないでしょうから」

「俺も戦う。華侯焔の目的は俺だ。連れ去る目的で、必ず狙いを俺に定めてくる瞬間がある。それを見計らって総攻撃してくれ」

 こちらの意思を告げると、才明がわずかに息を詰める。
 ゆっくりと身体を離し、真正面から俺を見つめる才明の視線は、驚きと重みがあった。

「華侯焔と対峙されるのですか……」

「戦う覚悟はできている。ここで抗わなければ、すべてが終わる……それだけは避けたい」

 もしかしたら俺の足掻きは無駄になり、今すぐ華侯焔の提案を受けるよりも苦しい状況を迎えてしまうかもしれない。

 それでも足掻きたい。ただの子供じみたワガママだとしても、このまま歪んだ状況を受け入れたくない。

 俺の覚悟を受け止めるように、才明は大きく頷いた。

「分かりました。白鐸も来ておりますから、神獣の加護が働き、華侯焔が相手でも戦えると思います。まずは戦場に向かいましょう」

「ああ」

 俺は才明に応えると、寝台の隅に追いやられていた服に手を伸ばした。
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