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十三話 裏切りの常習犯
一人の朝
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* * *
ツゥン――。
耳から小さく頭を貫いていく高い音。
どれだけ緊張し、動悸を逸らせていたとしても意識が一瞬途切れ、徐々に繋がっていく。
今ほど目覚めるのが怖いと思ったことはない。
激しく抱き潰された翌朝からの再開。華侯焔の腕の中から始めなくてはいけないのだ。あの温もりとまどろみの中、揺らがぬ自分を貫ける自信はない。
だが、強制的に敗者となる七十二時間ギリギリまで悩み、覚悟を決めて再開すれば、華侯焔の誘惑に抗えない気がしていた。まだ肌の熱さを覚えている内のほうが、身体は恋しがらずに済む。
――そう思っているのに。
少しずつ浮上する意識の中、身体は事後の名残りを思い出していく。
胸は現実で味わっていた動悸ではなく、どこかむず痒いような、甘い高揚を孕んだものに変わる。
全身を包み込む温もり。
敷布や布団の滑らかな肌触り。
朝のまぐわいを期待して疼いてしまう腹の奥。
昨夜、華侯焔にひどく囚われてしまったことを突きつけられる。
抗わなくてもいいだろうと、身体はもどかしさで俺に訴えてくる。
目覚めて華侯焔に抱かれてしまったら、現実の決意は早々に散り、堕ちてしまう。
自分の弱さを痛感させられながら、無慈悲に意識は浮上した――。
目覚めると部屋はほのかに明るく、朝を迎えていた。
「ん……焔……?」
重たいまぶたを開くと、いると思っていた華侯焔の姿はなかった。
俺だけがひとり、寝台の上にいる。
自分だけのぬくもりが、妙に寂しく感じてしまう。
「……どこに行ったんだ?」
ここには俺と華侯焔しかいないと言っていた。まさか朝食を用意しに行っているのだろうか?
俺が知る華侯焔なら、そういった気遣いをさりげなくする男だ。しばらくしたら不敵な笑みを浮かべながら、膳を持って来るのだろうと思う。
ただ、辺りが静かすぎる。
この城内に俺だけしかいないような、不穏な静けさだ。
事後の名残りに浮かれていた身体が落ち着き、俺の調子が戻ってくる。
身体を起こして身支度を整えようと、辺りを見渡して衣服を探す。
その時――タタタタ、と誰かが廊下を駆ける音がした。
華侯焔にしては足音が軽い。俺たち以外の人間がいるという事実に、俺の身体は強張る。
足音は急速に大きくなり、こちらへ近づいているのが分かる。
ダン! と部屋の前で大きく踏み鳴らす音が響き、止まる。
すぐさま扉が開くと同時に、部屋に大きな声が飛んできた。
「誠人様! ご無事ですか!?」
息を切らせながら現れたのは、才明だった。
ツゥン――。
耳から小さく頭を貫いていく高い音。
どれだけ緊張し、動悸を逸らせていたとしても意識が一瞬途切れ、徐々に繋がっていく。
今ほど目覚めるのが怖いと思ったことはない。
激しく抱き潰された翌朝からの再開。華侯焔の腕の中から始めなくてはいけないのだ。あの温もりとまどろみの中、揺らがぬ自分を貫ける自信はない。
だが、強制的に敗者となる七十二時間ギリギリまで悩み、覚悟を決めて再開すれば、華侯焔の誘惑に抗えない気がしていた。まだ肌の熱さを覚えている内のほうが、身体は恋しがらずに済む。
――そう思っているのに。
少しずつ浮上する意識の中、身体は事後の名残りを思い出していく。
胸は現実で味わっていた動悸ではなく、どこかむず痒いような、甘い高揚を孕んだものに変わる。
全身を包み込む温もり。
敷布や布団の滑らかな肌触り。
朝のまぐわいを期待して疼いてしまう腹の奥。
昨夜、華侯焔にひどく囚われてしまったことを突きつけられる。
抗わなくてもいいだろうと、身体はもどかしさで俺に訴えてくる。
目覚めて華侯焔に抱かれてしまったら、現実の決意は早々に散り、堕ちてしまう。
自分の弱さを痛感させられながら、無慈悲に意識は浮上した――。
目覚めると部屋はほのかに明るく、朝を迎えていた。
「ん……焔……?」
重たいまぶたを開くと、いると思っていた華侯焔の姿はなかった。
俺だけがひとり、寝台の上にいる。
自分だけのぬくもりが、妙に寂しく感じてしまう。
「……どこに行ったんだ?」
ここには俺と華侯焔しかいないと言っていた。まさか朝食を用意しに行っているのだろうか?
俺が知る華侯焔なら、そういった気遣いをさりげなくする男だ。しばらくしたら不敵な笑みを浮かべながら、膳を持って来るのだろうと思う。
ただ、辺りが静かすぎる。
この城内に俺だけしかいないような、不穏な静けさだ。
事後の名残りに浮かれていた身体が落ち着き、俺の調子が戻ってくる。
身体を起こして身支度を整えようと、辺りを見渡して衣服を探す。
その時――タタタタ、と誰かが廊下を駆ける音がした。
華侯焔にしては足音が軽い。俺たち以外の人間がいるという事実に、俺の身体は強張る。
足音は急速に大きくなり、こちらへ近づいているのが分かる。
ダン! と部屋の前で大きく踏み鳴らす音が響き、止まる。
すぐさま扉が開くと同時に、部屋に大きな声が飛んできた。
「誠人様! ご無事ですか!?」
息を切らせながら現れたのは、才明だった。
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