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十三話 裏切りの常習犯
どちらも選べない
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少しでも気を抜けば、その場に崩れ落ちて立てなくなる。
侶普も表涼も、自分の意思を持って動いている。己が惹かれた相手に手を伸ばし、彼らなりに歩もうとしている。
英正だってそうだ。
役に立ちたいと背伸びをしながら成長し、俺が欲しいと手を伸ばしてくれた。
直接この身体は『至高英雄』の世界に出入りしている。
だから俺は英正の想いも、身体も、どれだけ熱いか知っている――。
「……っ」
思わず息を引き、口元に手を当てる。嗚咽を漏らしてしまいそうで、必死に手の平を密着させ、嘆きの衝動を抑え込む。
今まで俺があの世界で積み重ねてきたものが枷となり、俺を捕らえていくのを感じる。
ただの作られた世界だと割り切るには、俺は知りすぎてしまった。
手が小刻みに振るえてしまう。
今の東郷さんには動揺を悟られたくないのに、掴まれた手が赤裸々に教えたがる。
俺を見上げる東郷さんの顔には、落胆の色はなかった。
どこかホッとした、ようやく重荷を降ろせる間際のような微笑を浮かべる。
「俺も、君も、弱いんだ。あの人のように命を切り捨てられない」
ギュッ、と。東郷さんが俺の手を強く握ってきた。
「奴隷となる敗者を見捨てられないなら、君の領土に匿えばいい。強欲な他の領主が何か仕掛けてくるかもしれないが、俺が必ず守ってみせる。だから……ここで覇者を諦めてくれ」
しばらく互いに見つめ合う。
頭の理解は追いつかないが、東郷さんの手の温もりが想いを深く届けてくる。
――スッ。東郷さんの親指が、俺の手を柔らかに撫でる。
途端に俺の肌にか弱くも甘い痺れが広がって、理性を揺らがされてしまう。
最初から東郷さんは、思ったように俺を動かしたかったんだ。
本命の目的を目指しながらも、それが敵わぬと分かって道を変えても良いように、用意した道を俺に歩かせて身も心も逆らえないようにしたのか。
何も言えない俺を、東郷さんが握った手を引き寄せて抱き締めてきた。
「……誠人。弱い俺を許してくれとは言わない。ただ、どうかあの世界を受け入れて欲しい」
切実な声。たくましく強い抱擁なのに、俺に縋りついて助けを請うているように感じてくる。
ずっと耐え続けて、ようやく俺だけに見せてくれた東郷さんの真実。
それは未熟な俺にはあまりに大きくて、重すぎて、返事どころか抱き締め返すことすらできなかった。
ふと、横目でベッドの上の和毅くんを見やる。
あっちの世界で感じた芯の強さは何も感じられない。
だからこそ和毅くんの――澗宇の考えが見えてくる。
兄を自由にするためなら、あの世界ごと消えてしまって構わない。
どちらかの望みを選べと言われても、今の俺には考えることすら無理だった。
侶普も表涼も、自分の意思を持って動いている。己が惹かれた相手に手を伸ばし、彼らなりに歩もうとしている。
英正だってそうだ。
役に立ちたいと背伸びをしながら成長し、俺が欲しいと手を伸ばしてくれた。
直接この身体は『至高英雄』の世界に出入りしている。
だから俺は英正の想いも、身体も、どれだけ熱いか知っている――。
「……っ」
思わず息を引き、口元に手を当てる。嗚咽を漏らしてしまいそうで、必死に手の平を密着させ、嘆きの衝動を抑え込む。
今まで俺があの世界で積み重ねてきたものが枷となり、俺を捕らえていくのを感じる。
ただの作られた世界だと割り切るには、俺は知りすぎてしまった。
手が小刻みに振るえてしまう。
今の東郷さんには動揺を悟られたくないのに、掴まれた手が赤裸々に教えたがる。
俺を見上げる東郷さんの顔には、落胆の色はなかった。
どこかホッとした、ようやく重荷を降ろせる間際のような微笑を浮かべる。
「俺も、君も、弱いんだ。あの人のように命を切り捨てられない」
ギュッ、と。東郷さんが俺の手を強く握ってきた。
「奴隷となる敗者を見捨てられないなら、君の領土に匿えばいい。強欲な他の領主が何か仕掛けてくるかもしれないが、俺が必ず守ってみせる。だから……ここで覇者を諦めてくれ」
しばらく互いに見つめ合う。
頭の理解は追いつかないが、東郷さんの手の温もりが想いを深く届けてくる。
――スッ。東郷さんの親指が、俺の手を柔らかに撫でる。
途端に俺の肌にか弱くも甘い痺れが広がって、理性を揺らがされてしまう。
最初から東郷さんは、思ったように俺を動かしたかったんだ。
本命の目的を目指しながらも、それが敵わぬと分かって道を変えても良いように、用意した道を俺に歩かせて身も心も逆らえないようにしたのか。
何も言えない俺を、東郷さんが握った手を引き寄せて抱き締めてきた。
「……誠人。弱い俺を許してくれとは言わない。ただ、どうかあの世界を受け入れて欲しい」
切実な声。たくましく強い抱擁なのに、俺に縋りついて助けを請うているように感じてくる。
ずっと耐え続けて、ようやく俺だけに見せてくれた東郷さんの真実。
それは未熟な俺にはあまりに大きくて、重すぎて、返事どころか抱き締め返すことすらできなかった。
ふと、横目でベッドの上の和毅くんを見やる。
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