280 / 345
十三話 裏切りの常習犯
重なる姿
しおりを挟む大広間から離れていくと、宴の賑わいが遠ざかっていく。
廊下は人気がなく、月のない夜空を見ながら英正と歩いていると、それだけで心が落ち着いていく。この一時は心地良い。
何も話さなくても苦しさを覚えないが、俺はふと感じていたことを英正に伝えた。
「なあ、英正。澗宇の所にいる間、侶普とよく一緒にいたようだが、何か教わっていたのか?」
「はい。特別に侶普様と手合わせし、技も伝授して頂きました」
華侯焔と肩を並べるほどの強さを誇る侶普から、直接手解きを受けたとは……羨ましい。しかも技まで教えてもらえるとは。
いくら同盟を組んでいたとしても、仕える主は別だ。その上でここまで英正に目をかけてくれるなど、本来ならあり得ないことだ。
あの澗宇がすべてな男が目をかけてしまうほど、英正は侶普に成長を期待されているのだろう。そう考えると誇らしく思えてくる。
「いったいどんな技を教えてもらったんだ?」
「大地を砕き、地の盾を生み出す技です。同時に攻撃も兼ねることができるので、雷獣化と合わせて使いこなせば、今まで以上に敵を蹴散らせるかと」
英正は近距離特化の武将で、遠距離の攻撃は今までなかった。それが侶普の技を授けてもらったことで攻撃の範囲が広がった。
これまで以上に頼もしくなった英正を、横目で見つめる。
俺と背丈は変わらないままなのに、体つきが前よりもがっしりとしている。絶え間ない鍛錬を積み重ねた証拠だ。横顔もあどけなさが消え、男の顔になった。
もし、今の英正と真剣勝負をしたら、俺は勝てるだろうか?
迷いを抱いている俺が、前だけを見据えているこの男に――。
「……誠人様。そんなに見つめられると、困ります」
ふと気づけば、英正が瞳に恥じらいを浮かべながら目を泳がせる。
ああ、英正らしいな。
どれだけ成長しても、変わらない人格の芯が見えたような気がして、俺は顔を綻ばせる。
「悪かった。強くなったと思って、つい」
「私などまだまだです。誠人様を守り抜くためには、もっと強くならなければ……」
「今以上に強くなりたいのか。本当に頼もしいな。どこまで強くなりたいんだ?」
「華侯焔様を上回る強さが欲しいです」
つまり、この世界の最強を望むというのか。
俺は現実で東郷さんを、英正は華侯焔を――誰もが敵わぬと諦めてしまう存在に勝つことを諦めない。
どこまでも俺と英正は重なるのだな、と思わずにはいられなかった。
領主の部屋に到着し、俺は扉を開けて中に入ろうとする。
「……誠人様」
呼ばれて振り返ると、英正の顔が間近にあった。
俺との交わりを望みながら、許されるまでは自分から来ない。この距離が英正にとっての強請りだ。
軽く首を伸ばし、俺から英正に口づける。
少しだけ舌先を絡ませ、俺も望んでしたことだと唇で伝えれば、英正からわずかに安堵の息が溢れた。
「おやすみなさいませ。また明日、お目にかかれることを心待ちにしております」
キスを切り上げながら、英正が優しい声色で告げてくる。
俺の世界に来ることができないことを、受け入れた上での言葉。それが伝わってきて、俺の胸は締め付けられた。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる