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十三話 裏切りの常習犯
重なる姿
しおりを挟む大広間から離れていくと、宴の賑わいが遠ざかっていく。
廊下は人気がなく、月のない夜空を見ながら英正と歩いていると、それだけで心が落ち着いていく。この一時は心地良い。
何も話さなくても苦しさを覚えないが、俺はふと感じていたことを英正に伝えた。
「なあ、英正。澗宇の所にいる間、侶普とよく一緒にいたようだが、何か教わっていたのか?」
「はい。特別に侶普様と手合わせし、技も伝授して頂きました」
華侯焔と肩を並べるほどの強さを誇る侶普から、直接手解きを受けたとは……羨ましい。しかも技まで教えてもらえるとは。
いくら同盟を組んでいたとしても、仕える主は別だ。その上でここまで英正に目をかけてくれるなど、本来ならあり得ないことだ。
あの澗宇がすべてな男が目をかけてしまうほど、英正は侶普に成長を期待されているのだろう。そう考えると誇らしく思えてくる。
「いったいどんな技を教えてもらったんだ?」
「大地を砕き、地の盾を生み出す技です。同時に攻撃も兼ねることができるので、雷獣化と合わせて使いこなせば、今まで以上に敵を蹴散らせるかと」
英正は近距離特化の武将で、遠距離の攻撃は今までなかった。それが侶普の技を授けてもらったことで攻撃の範囲が広がった。
これまで以上に頼もしくなった英正を、横目で見つめる。
俺と背丈は変わらないままなのに、体つきが前よりもがっしりとしている。絶え間ない鍛錬を積み重ねた証拠だ。横顔もあどけなさが消え、男の顔になった。
もし、今の英正と真剣勝負をしたら、俺は勝てるだろうか?
迷いを抱いている俺が、前だけを見据えているこの男に――。
「……誠人様。そんなに見つめられると、困ります」
ふと気づけば、英正が瞳に恥じらいを浮かべながら目を泳がせる。
ああ、英正らしいな。
どれだけ成長しても、変わらない人格の芯が見えたような気がして、俺は顔を綻ばせる。
「悪かった。強くなったと思って、つい」
「私などまだまだです。誠人様を守り抜くためには、もっと強くならなければ……」
「今以上に強くなりたいのか。本当に頼もしいな。どこまで強くなりたいんだ?」
「華侯焔様を上回る強さが欲しいです」
つまり、この世界の最強を望むというのか。
俺は現実で東郷さんを、英正は華侯焔を――誰もが敵わぬと諦めてしまう存在に勝つことを諦めない。
どこまでも俺と英正は重なるのだな、と思わずにはいられなかった。
領主の部屋に到着し、俺は扉を開けて中に入ろうとする。
「……誠人様」
呼ばれて振り返ると、英正の顔が間近にあった。
俺との交わりを望みながら、許されるまでは自分から来ない。この距離が英正にとっての強請りだ。
軽く首を伸ばし、俺から英正に口づける。
少しだけ舌先を絡ませ、俺も望んでしたことだと唇で伝えれば、英正からわずかに安堵の息が溢れた。
「おやすみなさいませ。また明日、お目にかかれることを心待ちにしております」
キスを切り上げながら、英正が優しい声色で告げてくる。
俺の世界に来ることができないことを、受け入れた上での言葉。それが伝わってきて、俺の胸は締め付けられた。
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