266 / 345
十二話 真実に近づく時
心を煽られても
しおりを挟む
「何者だ!?」
俺は背中に挿していた竹砕棍を抜き取り、構えを取る。
他の皆もそれぞれに得物を持ち、木の上の男に険しい目を向ける。
一対多数であるというのに、男は怯むことなく手をヒラヒラと振った。
「オレは……昂命とでも名乗っておこうかな。この世界の管理人。オレが世界の理だよ」
昂命の視線が俺を射抜いてくる。
その瞬間、ざわり、と俺の背筋に悪寒が走った。
「まったく、騙され続けている馬鹿のクセに、余計なことばかりして……オレとしては目障り極まりないんだけどね」
表情だけはにこやかで友好的だが、言葉と空気は不穏だ。俺を敵視していることがうかがえる。
そして『至高英雄』の管理人――つまり彼が、この世界を作った者なのだろうか? 東郷さんが捕らえろと言っていたのは、昂命のことなのか?
目まぐるしく頭を働かせる俺の前に、それぞれ剣を手にした華侯焔と英正が立ち臨む。
「俺の誠人を燃やそうとした罪は重いぞ。ケンカしてやるから降りろ。ブチのめしてやる」
「私の主を愚弄したこと、取り消して頂きます」
相手が動くよりも前に、二人が動き出す。
先に華侯焔が駆け、高々と跳躍する。昂命よりも上を跳んで剣を振り下ろす。
こちらにまで風が届きそうなほどの素早い振り。
しかし昂命は柳がなびくが如く、柔らかな動きで攻撃を避け、木の下へと降りる。
少し遅れて走り出していた英正が、昂命を正面に捕らえ、剣を手にした腕を大きく引く。
そうして突き出した剣は渦を生み、昂命の身体を貫かんとする。
躊躇のない突き。鬼気迫る剣気に俺が呑まれそうだ。
剣が届きかけた瞬間、昂命の身体が揺れる。
気づけば英正の前に姿はなく、その姿を見失う。
どこにいった?
今まで戦ってきた中で、こんなにも気配を感じない者は初めてだ。
倒そうという闘志も、殺気も、俺たちに抱いていない。それでいて目にはハッキリと敵意を浮かべている。
掴みどころがなくて厄介な相手。
しきりに辺りを見渡していると――。
「プレイヤーを燃やすだなんて、あの人に怒られてしまうよ。大切な餌で、労働力で、オモチャ。オレはただ結界の綻びを閉じただけ」
俺の隣から昂命の声がして、思わず跳び退く。
距離を取った俺に、昂命が嘲笑を浮かべた。
「ハハ、情けないなあ。オレのことビビってるの? 勇敢な見た目なのに、中身は可愛いな……大切に愛でられてるもんなあ。領主というより姫だもの」
俺の状況を知っている。頭では割り切っていることなのに、いざ他人から指摘されると羞恥で我を忘れそうになる。
おそらく、これが昂命のやり方。心を乱されてたまるか。
俺は深く息を吸い込み、理性を掻き集めて昂命を見据えた。
俺は背中に挿していた竹砕棍を抜き取り、構えを取る。
他の皆もそれぞれに得物を持ち、木の上の男に険しい目を向ける。
一対多数であるというのに、男は怯むことなく手をヒラヒラと振った。
「オレは……昂命とでも名乗っておこうかな。この世界の管理人。オレが世界の理だよ」
昂命の視線が俺を射抜いてくる。
その瞬間、ざわり、と俺の背筋に悪寒が走った。
「まったく、騙され続けている馬鹿のクセに、余計なことばかりして……オレとしては目障り極まりないんだけどね」
表情だけはにこやかで友好的だが、言葉と空気は不穏だ。俺を敵視していることがうかがえる。
そして『至高英雄』の管理人――つまり彼が、この世界を作った者なのだろうか? 東郷さんが捕らえろと言っていたのは、昂命のことなのか?
目まぐるしく頭を働かせる俺の前に、それぞれ剣を手にした華侯焔と英正が立ち臨む。
「俺の誠人を燃やそうとした罪は重いぞ。ケンカしてやるから降りろ。ブチのめしてやる」
「私の主を愚弄したこと、取り消して頂きます」
相手が動くよりも前に、二人が動き出す。
先に華侯焔が駆け、高々と跳躍する。昂命よりも上を跳んで剣を振り下ろす。
こちらにまで風が届きそうなほどの素早い振り。
しかし昂命は柳がなびくが如く、柔らかな動きで攻撃を避け、木の下へと降りる。
少し遅れて走り出していた英正が、昂命を正面に捕らえ、剣を手にした腕を大きく引く。
そうして突き出した剣は渦を生み、昂命の身体を貫かんとする。
躊躇のない突き。鬼気迫る剣気に俺が呑まれそうだ。
剣が届きかけた瞬間、昂命の身体が揺れる。
気づけば英正の前に姿はなく、その姿を見失う。
どこにいった?
今まで戦ってきた中で、こんなにも気配を感じない者は初めてだ。
倒そうという闘志も、殺気も、俺たちに抱いていない。それでいて目にはハッキリと敵意を浮かべている。
掴みどころがなくて厄介な相手。
しきりに辺りを見渡していると――。
「プレイヤーを燃やすだなんて、あの人に怒られてしまうよ。大切な餌で、労働力で、オモチャ。オレはただ結界の綻びを閉じただけ」
俺の隣から昂命の声がして、思わず跳び退く。
距離を取った俺に、昂命が嘲笑を浮かべた。
「ハハ、情けないなあ。オレのことビビってるの? 勇敢な見た目なのに、中身は可愛いな……大切に愛でられてるもんなあ。領主というより姫だもの」
俺の状況を知っている。頭では割り切っていることなのに、いざ他人から指摘されると羞恥で我を忘れそうになる。
おそらく、これが昂命のやり方。心を乱されてたまるか。
俺は深く息を吸い込み、理性を掻き集めて昂命を見据えた。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
異世界で騎士団寮長になりまして
円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎
天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。
王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。
異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。
「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」
「「そういうこと」」
グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。
一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。
やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。
二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる