244 / 345
十二話 真実に近づく時
想いの向かう先
しおりを挟む
パタンと扉を閉めると、才明はその場に立ち尽くし、俺を見つめてくる。
「……来ないのか?」
動く気配のない才明に俺から声をかけると、才明は重い足取りで俺に近づく。
「誠人様……隣に座っても?」
「ああ、構わない」
ゆっくりと才明が腰を下ろす。
どちらかが手を伸ばせば触れられる距離。近いようで遠さを感じる。
何か話すだろうと待ってみるが、才明の口は開かない。だから俺のほうから話を切り出してみた。
「何か悩みでもあるのか? よければ教えて欲しい」
俺は才明に顔を向け、真っ直ぐに見据える。
静かに才明は俺を見つめ返す。だが、スッ、と視線が下に逸れた気配がした。
「これを口にして良いものかどうかが悩みですね。言ってしまえば、今まで築き上げたものが壊れてしまうでしょうから」
「約束する。何を聞いても俺は変わらない。今まで通り――」
「それを私が望んでいないとしたら?」
意表を突かれて思わず俺は目を丸くする。
変えたいものがある? 何を変えたい?
少しでも才明の考えを知ろうと頭を巡らせていると、不意に才明が身を乗り出し、俺に顔を近づけてきた。
「あのお二人は良いですよね。純粋に想いを寄せることができて……華侯焔は誠人様の心を射止めている。英正はこの世界で誠人様にすべてを捧げるために作られた……形は違えど、高めた想いが向かう先があるのです」
糸目がわずかに開き、才明の瞳から熱が覗く。そしてどこか仄暗さが漂い、俺は身を引きそうになる。
――今の才明から逃げてはいけない。
どんな彼でも受け止めなければ。それが領主の役目。
ジッと訪れを待ち構えていると、才明は吐息がかかるほど顔を近づけ、動きを止めた。
「貴方を抱いて、想いを高めて、目的を果たした後――私には何も残らないのですよ、誠人様」
「え……?」
「ここでの貴方は皆のもの。しかし本当の世界ではもう、あの方に囚われている……私も英正も、華侯焔には敵いません。でも英正はこの世界でしか生きられないからと、別れの日まで想いを高める気でいます」
そっと才明の手が俺の頬に添えられる。まだ湯冷めしていない手は熱く、才明の高ぶる気持ちを表しているようだった。
「誠人様が覇者になれば、私はこの世界から解放される……育てた想いをぶつけたくても、既に貴方は奪われている。この世界でなければ、私は貴方を抱くどころか、こうして愛しく触れることもできません」
「才明……」
「身体を重ねて想いを深めれば、誠人様と強い技を生み出せることは承知しています。それでも……これ以上、貴方を想えば私は……絶望しかない」
「……来ないのか?」
動く気配のない才明に俺から声をかけると、才明は重い足取りで俺に近づく。
「誠人様……隣に座っても?」
「ああ、構わない」
ゆっくりと才明が腰を下ろす。
どちらかが手を伸ばせば触れられる距離。近いようで遠さを感じる。
何か話すだろうと待ってみるが、才明の口は開かない。だから俺のほうから話を切り出してみた。
「何か悩みでもあるのか? よければ教えて欲しい」
俺は才明に顔を向け、真っ直ぐに見据える。
静かに才明は俺を見つめ返す。だが、スッ、と視線が下に逸れた気配がした。
「これを口にして良いものかどうかが悩みですね。言ってしまえば、今まで築き上げたものが壊れてしまうでしょうから」
「約束する。何を聞いても俺は変わらない。今まで通り――」
「それを私が望んでいないとしたら?」
意表を突かれて思わず俺は目を丸くする。
変えたいものがある? 何を変えたい?
少しでも才明の考えを知ろうと頭を巡らせていると、不意に才明が身を乗り出し、俺に顔を近づけてきた。
「あのお二人は良いですよね。純粋に想いを寄せることができて……華侯焔は誠人様の心を射止めている。英正はこの世界で誠人様にすべてを捧げるために作られた……形は違えど、高めた想いが向かう先があるのです」
糸目がわずかに開き、才明の瞳から熱が覗く。そしてどこか仄暗さが漂い、俺は身を引きそうになる。
――今の才明から逃げてはいけない。
どんな彼でも受け止めなければ。それが領主の役目。
ジッと訪れを待ち構えていると、才明は吐息がかかるほど顔を近づけ、動きを止めた。
「貴方を抱いて、想いを高めて、目的を果たした後――私には何も残らないのですよ、誠人様」
「え……?」
「ここでの貴方は皆のもの。しかし本当の世界ではもう、あの方に囚われている……私も英正も、華侯焔には敵いません。でも英正はこの世界でしか生きられないからと、別れの日まで想いを高める気でいます」
そっと才明の手が俺の頬に添えられる。まだ湯冷めしていない手は熱く、才明の高ぶる気持ちを表しているようだった。
「誠人様が覇者になれば、私はこの世界から解放される……育てた想いをぶつけたくても、既に貴方は奪われている。この世界でなければ、私は貴方を抱くどころか、こうして愛しく触れることもできません」
「才明……」
「身体を重ねて想いを深めれば、誠人様と強い技を生み出せることは承知しています。それでも……これ以上、貴方を想えば私は……絶望しかない」
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説




美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる