240 / 345
十二話 真実に近づく時
不調?
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
日が暮れて、俺たちは侶普に案内されて街に向かった。
資源が豊富な領土。領主の居城から離れた地まで豊かさは行き渡っているようで、人々が賑わう街だった。
騎乗したまま大通りを行き、閑静な場所へと移っていく。
漆喰の壁に囲まれた屋敷が並ぶそこは、どうやら高官か武将の住居が集まる所らしかった。
その中でも一番大きな屋敷の前に着くと、侶普は馬を降りた。
「本日はこちらで一泊致します。中の者に知らせて参りますので、今しばらくお待ち下さい」
深々と一礼すると、侶普は踵を返して屋敷の中へと入っていく。
俺も馬を降りようとした時、華侯焔が英正の肩を組み、妙に絡んでいる様子が目に入った。
仲良く雑談しているなら別に気にならないが、英正の顔が明らかに困っている。頬も赤い。真面目な英正に対して遊び半分にからかっているのだとしたら、領主として放ってはおけない。
俺は二人に近づき、華侯焔に視線を向けて軽く牽制しながら尋ねる。
「何を話しているんだ?」
振り向いた華侯焔の顔は、明らかに面白がっている笑みを浮かべていた。
「英正に誠人様との合わせ技がどうだったか聞いていたんだよ。やっぱりヨかっただろ?」
「そ、それは、その……誠人様のお役に立てているのが分かって、光栄でした」
「一体感がすごかっただろ? あんなの覚えちまったら、身も心も捧げたくなるだろ?」
「はい……至福の時でした。誠人様のすべてが伝わり、私のすべても伝わる……夢のようで、頭が幸せでおかしくなりそうで……」
「分かる。よく分かるぞ英正。だがこれで限界じゃない。回数を重ねれば、さらにヨくなるんだ」
「あの時よりも、さらに……!?」
「少しでも機会があればヤれ。遠慮するな。それが誠人様のためになる――」
……頭では合わせ技のことだと分かっているが、どう聞いても情事のことを言っているようにしか思えない。
これはアドバイス。華侯焔が英正のためにアドバイスを送っているだけなんだ。だから俺は恥ずかしく思う必要は――駄目だ。今すぐ頭を抱えてこの場から逃げたくなる。
取り敢えず問題はないと判断して、気を逸らせようと才明のほうへ目を向ける。
馬を降りたまま、ぼんやりしている才明に気づいて、俺は肩を揺すった。
「才明、大丈夫か?」
「あ……誠人、様」
「連日の移動で疲れが出たのか? 無理をさせて済まないが、潤宇の元に着くまでは耐えてくれ」
珍しく気が抜けた顔で頭を上げると、才明は鈍い動きで頷く。
「分かっております。いくら前線で武器を取らぬ軍師であれども、これぐらいで音を上げるような鍛え方はしておりませんから」
小さく笑う才明に、普段の不敵さや余裕が戻ってくる。しかし、それでもどこか弱っている気配が溢れていた。
日が暮れて、俺たちは侶普に案内されて街に向かった。
資源が豊富な領土。領主の居城から離れた地まで豊かさは行き渡っているようで、人々が賑わう街だった。
騎乗したまま大通りを行き、閑静な場所へと移っていく。
漆喰の壁に囲まれた屋敷が並ぶそこは、どうやら高官か武将の住居が集まる所らしかった。
その中でも一番大きな屋敷の前に着くと、侶普は馬を降りた。
「本日はこちらで一泊致します。中の者に知らせて参りますので、今しばらくお待ち下さい」
深々と一礼すると、侶普は踵を返して屋敷の中へと入っていく。
俺も馬を降りようとした時、華侯焔が英正の肩を組み、妙に絡んでいる様子が目に入った。
仲良く雑談しているなら別に気にならないが、英正の顔が明らかに困っている。頬も赤い。真面目な英正に対して遊び半分にからかっているのだとしたら、領主として放ってはおけない。
俺は二人に近づき、華侯焔に視線を向けて軽く牽制しながら尋ねる。
「何を話しているんだ?」
振り向いた華侯焔の顔は、明らかに面白がっている笑みを浮かべていた。
「英正に誠人様との合わせ技がどうだったか聞いていたんだよ。やっぱりヨかっただろ?」
「そ、それは、その……誠人様のお役に立てているのが分かって、光栄でした」
「一体感がすごかっただろ? あんなの覚えちまったら、身も心も捧げたくなるだろ?」
「はい……至福の時でした。誠人様のすべてが伝わり、私のすべても伝わる……夢のようで、頭が幸せでおかしくなりそうで……」
「分かる。よく分かるぞ英正。だがこれで限界じゃない。回数を重ねれば、さらにヨくなるんだ」
「あの時よりも、さらに……!?」
「少しでも機会があればヤれ。遠慮するな。それが誠人様のためになる――」
……頭では合わせ技のことだと分かっているが、どう聞いても情事のことを言っているようにしか思えない。
これはアドバイス。華侯焔が英正のためにアドバイスを送っているだけなんだ。だから俺は恥ずかしく思う必要は――駄目だ。今すぐ頭を抱えてこの場から逃げたくなる。
取り敢えず問題はないと判断して、気を逸らせようと才明のほうへ目を向ける。
馬を降りたまま、ぼんやりしている才明に気づいて、俺は肩を揺すった。
「才明、大丈夫か?」
「あ……誠人、様」
「連日の移動で疲れが出たのか? 無理をさせて済まないが、潤宇の元に着くまでは耐えてくれ」
珍しく気が抜けた顔で頭を上げると、才明は鈍い動きで頷く。
「分かっております。いくら前線で武器を取らぬ軍師であれども、これぐらいで音を上げるような鍛え方はしておりませんから」
小さく笑う才明に、普段の不敵さや余裕が戻ってくる。しかし、それでもどこか弱っている気配が溢れていた。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる