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十二話 真実に近づく時
侶普の出迎え
しおりを挟む三日ほど馬を走らせ、俺たちは潤宇の領地に足を踏み入れた。
領土の境目に一番近い小城に立ち寄ると、建物の規模にそぐわない人物が出迎えてくれた。
「誠人様、お待ちしておりました」
城門までわざわざ出迎えてくれたのは、潤宇の配下で最も信を置いている武将の侶普だった。
深々と頭を下げて拝手する侶普に、華侯焔が声をかける。
「なんでお前がここにいるんだ、侶普? まさかこんな守りが手薄な所に、潤宇も来ているなんてことはないだろうな?」
「……」
「なんだその沈黙は。まさか……」
「いや、ここにはいない」
顔を上げないまま侶普が話をする。俺の許しがないとこのままを続けそうで、俺は「侶普、顔を上げて欲しい」と言ってみる。
すると「お許し頂き、感謝します」と丁寧に礼を言ってから、侶普は顔を上げる。
英正と同じような硬さと真面目さのある配下の態度だが、侶普のほうが風格がある分、威圧感が強い。
多分、華侯焔なら「おう」と片手を上げて挨拶を終わらせそうな気がする。
無類の強さを誇る華侯焔と侶普。二人が顔を合わせると、真逆の性格であることが際立って分かる。
……現実の東郷さんなら、むしろ侶普に似ている。そもそも華侯焔が現実とゲームで違い過ぎて、このギャップを意識してしまうと、俺の胸の中がモヤモヤとしてくる。
二人のやり取りを見ながらそんなことを考えていると、無骨な武人らしい侶普の顔が険しくなる。まるで死地へ向かわねばと焦っているかのようだ。
「立ち話もなんだから、城に入れてくれ。才明の手紙で、俺たちの狙いは分かっているんだろ? 時間が惜しいんだ。さっさとこれからのことを話すぞ――」
急かしてくる潤宇に対し、侶普が短く頷いた。
「ああ、確かに時間が惜しい」
不意に城門の向こう側からブルル、と馬の鳴き声が聞こえてくる。
そして兵たちが侶普の元へ赤毛の馬を連れてくると、侶普はその手綱を握った。
「今から潤宇様の元へ誠人様をご案内します。最短で駆けて参りますので、私について来て下さい」
「……は? 今からか?」
俺たちの困惑を、華侯焔が代弁する。
侶普は力強く真顔で頷いた。
「ここより南南西にある、この世界の際に近い城で潤宇様はお待ちになられている。俺が育てた武将や兵で守りは固めているが、正直心もとない。大変申し訳ないが、昼夜問わず馳せることを許して頂きたい」
一刻も早く潤宇の元へ向かいたいという、侶普の熱意が伝わってくる。
俺としても早く向かえることはありがたい。
一度は降りた馬の手綱を握り、俺は再び乗り上げてまたがった。
「承知した。一刻も早く潤宇の元に向かいたい気持ちは俺も同じだ。このまま馬を走らせよう」
「ご理解、感謝致します」
素早く拝手すると、侶普も赤い馬に乗る。
領主の決定は絶対だ。移動の疲れはあるだろうが、不快な気配を微塵も見せず、華侯焔たちも馬にまたがる。
そうして侶普を先頭に、俺たちは南南西へと向かった。
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