201 / 345
十話 至高への一歩
最初の褒美は
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
太史翔の城から離れ、一番近くにある俺の城で戦勝の宴を開いている最中のことだった。
俺の近くに集まった華侯焔と才明と英正が、何やら話し込んでいることに気づく。
領主を討ったことで周囲が盛り上がるせいで騒がしく、彼らの話し声は聞こえてこない。
ただ、戦いの後にこの三人が話すことと言えば、大体が褒美の話だ。
「まーた華侯焔が誠人サマで悪巧みしようとしているんでしょうかねー?」
俺の脇に控えながら、目の前の瓶に入った酒を楽しんでいた白鐸が、華侯焔たちを見やりながら呟く。
正直、気になって仕方がない。この後に俺が何をされてしまうのかと思うと、気が気でない。しかも才明は現実で仲林アナだと知ってしまっただけに、真実の姿が頭の中にチラついてしまう。
そもそも俺の身体はVRではなくて本物だ。また彼らを覚えてしまうのかと思うと、腰の奥が落ち着かなくなってくる。むず痒くて、気を抜くと力が抜けてしまいそうな――。
「誠人サマ、お酒、飲まないんですかー?」
白鐸に話しかけられて、俺はハッと我に返る。
「今はそんな気分じゃないんだ。良かったら俺の分を飲んでくれないか、白鐸」
宴の始まりのために盃に注がれた酒を、俺は白鐸へ差し出す。
ほぼ毛玉な白鐸の目がキラリと光った。
「嬉しいですー! 領主サマ自ら下さるお酒は格別ですー」
白鐸がその場に浮かび、空を回りながら大きな声ではしゃぐ。
ギロッ、と華侯焔たちが三人同時に振り向いて白鐸を睨む。
実力者たちの殺気じみた視線を突き刺されても、むしろ白鐸は自慢げだった。
「ワタシも頑張りましたからねー。っていうか、最初からずーっと頑張っているんですからー」
俺が手にした盃から直に酒を飲み干すと、白鐸は俺の腕に巻き付いて顔を擦り付けてくる。いつも親しげではあるが、ここまで絡んだりはしない。どうやら酔っているらしい。
極上のタオルにまとわりつかれているようで、この感触は悪くないと思っていると、白鐸が小さく呟いた。
「本っっ当に嬉しいんですよー。誠人サマがここまで強くなられて……うっうっ……」
絡み上戸で泣き上戸だったのか、白鐸。
厄介だと思いつつも、喜んでくれている気持ちは伝わってくる。おもむろに俺は手を伸ばし、白鐸の頭を撫でた。
「感謝している、白鐸。これからも頼りにしている」
「ええ。絶対に誠人サマをお守りしますからー……この命に変えても、必ず――」
やけに熱意のある言葉を口にするなと思っていると、
「コラ、抜け駆けするな、長毛玉」
いつの間にか話を切り上げた華侯焔が、白鐸の首根っこを掴んで持ち上げた。
「あーっ、華侯焔! 何するんですかー!」
「ちょっと飲み過ぎだ。外にでも出て酔いを覚まして来い」
いつもなら売り言葉に買い言葉で延々と言い合いが始まるが、珍しく白鐸から反発がなかった。
しゅるり、と俺の腕から離れると、白鐸は軽くフラつきなら空に浮かぶ。
「……みたいですねー。誠人サマに迷惑をかける前に、ちょっと行ってきますー」
そうしてユラユラと上下を波立たせながら、白鐸は宴の広間から出て行ってしまった。
太史翔の城から離れ、一番近くにある俺の城で戦勝の宴を開いている最中のことだった。
俺の近くに集まった華侯焔と才明と英正が、何やら話し込んでいることに気づく。
領主を討ったことで周囲が盛り上がるせいで騒がしく、彼らの話し声は聞こえてこない。
ただ、戦いの後にこの三人が話すことと言えば、大体が褒美の話だ。
「まーた華侯焔が誠人サマで悪巧みしようとしているんでしょうかねー?」
俺の脇に控えながら、目の前の瓶に入った酒を楽しんでいた白鐸が、華侯焔たちを見やりながら呟く。
正直、気になって仕方がない。この後に俺が何をされてしまうのかと思うと、気が気でない。しかも才明は現実で仲林アナだと知ってしまっただけに、真実の姿が頭の中にチラついてしまう。
そもそも俺の身体はVRではなくて本物だ。また彼らを覚えてしまうのかと思うと、腰の奥が落ち着かなくなってくる。むず痒くて、気を抜くと力が抜けてしまいそうな――。
「誠人サマ、お酒、飲まないんですかー?」
白鐸に話しかけられて、俺はハッと我に返る。
「今はそんな気分じゃないんだ。良かったら俺の分を飲んでくれないか、白鐸」
宴の始まりのために盃に注がれた酒を、俺は白鐸へ差し出す。
ほぼ毛玉な白鐸の目がキラリと光った。
「嬉しいですー! 領主サマ自ら下さるお酒は格別ですー」
白鐸がその場に浮かび、空を回りながら大きな声ではしゃぐ。
ギロッ、と華侯焔たちが三人同時に振り向いて白鐸を睨む。
実力者たちの殺気じみた視線を突き刺されても、むしろ白鐸は自慢げだった。
「ワタシも頑張りましたからねー。っていうか、最初からずーっと頑張っているんですからー」
俺が手にした盃から直に酒を飲み干すと、白鐸は俺の腕に巻き付いて顔を擦り付けてくる。いつも親しげではあるが、ここまで絡んだりはしない。どうやら酔っているらしい。
極上のタオルにまとわりつかれているようで、この感触は悪くないと思っていると、白鐸が小さく呟いた。
「本っっ当に嬉しいんですよー。誠人サマがここまで強くなられて……うっうっ……」
絡み上戸で泣き上戸だったのか、白鐸。
厄介だと思いつつも、喜んでくれている気持ちは伝わってくる。おもむろに俺は手を伸ばし、白鐸の頭を撫でた。
「感謝している、白鐸。これからも頼りにしている」
「ええ。絶対に誠人サマをお守りしますからー……この命に変えても、必ず――」
やけに熱意のある言葉を口にするなと思っていると、
「コラ、抜け駆けするな、長毛玉」
いつの間にか話を切り上げた華侯焔が、白鐸の首根っこを掴んで持ち上げた。
「あーっ、華侯焔! 何するんですかー!」
「ちょっと飲み過ぎだ。外にでも出て酔いを覚まして来い」
いつもなら売り言葉に買い言葉で延々と言い合いが始まるが、珍しく白鐸から反発がなかった。
しゅるり、と俺の腕から離れると、白鐸は軽くフラつきなら空に浮かぶ。
「……みたいですねー。誠人サマに迷惑をかける前に、ちょっと行ってきますー」
そうしてユラユラと上下を波立たせながら、白鐸は宴の広間から出て行ってしまった。
0
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる