196 / 345
十話 至高への一歩
一か八か
しおりを挟む
数で勝っているはずなのに、未知の脅威に攻められ、敵兵全体に怯えの色が広がっていく。
戦意が下がった兵たちを弾き飛ばしながら俺は進軍する。
太史翔がいるであろう城に迫っていけば、小隊を率いて本隊から斜めに駆けてきた華侯焔と合流した。
「調子が良いようで何よりだ、誠人様」
ニッと不敵に笑いながら、華侯焔が馬上で背に担いでいたコンパウンドボウと矢を手にする。
俺は短く頷き、馬を動かして華侯焔に並ぶ。
「長引けばこちらが不利になる。早く終わらせよう」
竹砕棍を構える動きに合わせて、華侯焔も矢を弓にかけ、大きく引き絞りながら呟く。
「本気でいくぞ」
「ああ」
俺の返事を合図に、互いの気が高まる。
熱が溢れ出す。姿を見なくても俺と同じように目前の城を視線で射抜き、胸の奥を高揚させているのが分かる。
合わせ技を出す間際の、この一体感。
褒美のまぐわいの時よりもひとつになっている感じがして、身体の芯が火照っていく。
昂りが頭の頂まで満ちた瞬間、俺は知らぬ内に技を繰り出していた。
「炎舞撃……!」
炎が溢れ、華侯焔の矢に絡みつく。
辺りに熱風が吹き荒れ、周囲の兵たちを翻弄する。
俺たち以外が地面に膝をついた中、華侯焔の矢が放たれた。
飛んでいく矢は炎をまとい、もはや火球だった。
そして城に届き――天地が揺れ、轟音が響き渡る。
見事に太史翔の城は正面が大きく崩れ、敵兵たちの悲鳴が聞こえてきた。
阿鼻叫喚の中、華侯焔は満足げに腕を組んで笑う。
「前よりも威力が増していて何よりだ。それだけ俺との絆が深まってる証だ」
「……あまり意識させないでくれ。恥ずかしくなってくる」
思わず俺は華侯焔から顔を逸らす。技を出して身体の熱は抜けてしまったが、それでも顔の熱だけは消えなかった。
「もう一度放てば、城ごと太史翔を潰せるかもな――ん? あれは?」
華侯焔の声につられて、俺は土煙が舞って景色がぼやけた前方を見る。
しばらく様子を見ていると、馬に乗った武将らしき影が近づいてくる。
次第に距離が縮まり、その姿が露わになった時、彼は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「我は太史翔なり! 正代誠人、貴殿に一騎打ちを申し込む!」
長尾鶏の羽根で飾れた兜を被り、赤茶の鎧をまとったその将は、大きな槍の切先を俺に向けて叫ぶ。
顔はよく見えないが体格が大きいことは分かる。胸骨が分厚く、腕や脚の太さから、屈強な筋肉の気配が見受けられた。
俺を名指ししながらの決闘の申し込み。
隣から華侯焔が鼻で笑う声がした。
「ハッ、太史翔の奴、このままだと攻め切られて負けると思って、一か八かの賭けに出たな」
「どういうことだ?」
「領主同士が一騎打ちしたら、勝ったほうが負けたほうのすべてを手にすることができるんだ。領地も、財も、人材も――」
戦意が下がった兵たちを弾き飛ばしながら俺は進軍する。
太史翔がいるであろう城に迫っていけば、小隊を率いて本隊から斜めに駆けてきた華侯焔と合流した。
「調子が良いようで何よりだ、誠人様」
ニッと不敵に笑いながら、華侯焔が馬上で背に担いでいたコンパウンドボウと矢を手にする。
俺は短く頷き、馬を動かして華侯焔に並ぶ。
「長引けばこちらが不利になる。早く終わらせよう」
竹砕棍を構える動きに合わせて、華侯焔も矢を弓にかけ、大きく引き絞りながら呟く。
「本気でいくぞ」
「ああ」
俺の返事を合図に、互いの気が高まる。
熱が溢れ出す。姿を見なくても俺と同じように目前の城を視線で射抜き、胸の奥を高揚させているのが分かる。
合わせ技を出す間際の、この一体感。
褒美のまぐわいの時よりもひとつになっている感じがして、身体の芯が火照っていく。
昂りが頭の頂まで満ちた瞬間、俺は知らぬ内に技を繰り出していた。
「炎舞撃……!」
炎が溢れ、華侯焔の矢に絡みつく。
辺りに熱風が吹き荒れ、周囲の兵たちを翻弄する。
俺たち以外が地面に膝をついた中、華侯焔の矢が放たれた。
飛んでいく矢は炎をまとい、もはや火球だった。
そして城に届き――天地が揺れ、轟音が響き渡る。
見事に太史翔の城は正面が大きく崩れ、敵兵たちの悲鳴が聞こえてきた。
阿鼻叫喚の中、華侯焔は満足げに腕を組んで笑う。
「前よりも威力が増していて何よりだ。それだけ俺との絆が深まってる証だ」
「……あまり意識させないでくれ。恥ずかしくなってくる」
思わず俺は華侯焔から顔を逸らす。技を出して身体の熱は抜けてしまったが、それでも顔の熱だけは消えなかった。
「もう一度放てば、城ごと太史翔を潰せるかもな――ん? あれは?」
華侯焔の声につられて、俺は土煙が舞って景色がぼやけた前方を見る。
しばらく様子を見ていると、馬に乗った武将らしき影が近づいてくる。
次第に距離が縮まり、その姿が露わになった時、彼は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「我は太史翔なり! 正代誠人、貴殿に一騎打ちを申し込む!」
長尾鶏の羽根で飾れた兜を被り、赤茶の鎧をまとったその将は、大きな槍の切先を俺に向けて叫ぶ。
顔はよく見えないが体格が大きいことは分かる。胸骨が分厚く、腕や脚の太さから、屈強な筋肉の気配が見受けられた。
俺を名指ししながらの決闘の申し込み。
隣から華侯焔が鼻で笑う声がした。
「ハッ、太史翔の奴、このままだと攻め切られて負けると思って、一か八かの賭けに出たな」
「どういうことだ?」
「領主同士が一騎打ちしたら、勝ったほうが負けたほうのすべてを手にすることができるんだ。領地も、財も、人材も――」
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説




美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる