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十話 至高への一歩

一か八か

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 数で勝っているはずなのに、未知の脅威に攻められ、敵兵全体に怯えの色が広がっていく。

 戦意が下がった兵たちを弾き飛ばしながら俺は進軍する。
 太史翔がいるであろう城に迫っていけば、小隊を率いて本隊から斜めに駆けてきた華侯焔と合流した。

「調子が良いようで何よりだ、誠人様」

 ニッと不敵に笑いながら、華侯焔が馬上で背に担いでいたコンパウンドボウと矢を手にする。

 俺は短く頷き、馬を動かして華侯焔に並ぶ。

「長引けばこちらが不利になる。早く終わらせよう」

 竹砕棍を構える動きに合わせて、華侯焔も矢を弓にかけ、大きく引き絞りながら呟く。

「本気でいくぞ」

「ああ」

 俺の返事を合図に、互いの気が高まる。
 熱が溢れ出す。姿を見なくても俺と同じように目前の城を視線で射抜き、胸の奥を高揚させているのが分かる。

 合わせ技を出す間際の、この一体感。
 褒美のまぐわいの時よりもひとつになっている感じがして、身体の芯が火照っていく。

 昂りが頭の頂まで満ちた瞬間、俺は知らぬ内に技を繰り出していた。

「炎舞撃……!」

 炎が溢れ、華侯焔の矢に絡みつく。
 辺りに熱風が吹き荒れ、周囲の兵たちを翻弄する。

 俺たち以外が地面に膝をついた中、華侯焔の矢が放たれた。

 飛んでいく矢は炎をまとい、もはや火球だった。
 そして城に届き――天地が揺れ、轟音が響き渡る。

 見事に太史翔の城は正面が大きく崩れ、敵兵たちの悲鳴が聞こえてきた。

 阿鼻叫喚の中、華侯焔は満足げに腕を組んで笑う。

「前よりも威力が増していて何よりだ。それだけ俺との絆が深まってる証だ」

「……あまり意識させないでくれ。恥ずかしくなってくる」

 思わず俺は華侯焔から顔を逸らす。技を出して身体の熱は抜けてしまったが、それでも顔の熱だけは消えなかった。

「もう一度放てば、城ごと太史翔を潰せるかもな――ん? あれは?」

 華侯焔の声につられて、俺は土煙が舞って景色がぼやけた前方を見る。

 しばらく様子を見ていると、馬に乗った武将らしき影が近づいてくる。

 次第に距離が縮まり、その姿が露わになった時、彼は大きく息を吸い込んで叫んだ。

「我は太史翔なり! 正代誠人、貴殿に一騎打ちを申し込む!」

 長尾鶏の羽根で飾れた兜を被り、赤茶の鎧をまとったその将は、大きな槍の切先を俺に向けて叫ぶ。

 顔はよく見えないが体格が大きいことは分かる。胸骨が分厚く、腕や脚の太さから、屈強な筋肉の気配が見受けられた。

 俺を名指ししながらの決闘の申し込み。
 隣から華侯焔が鼻で笑う声がした。

「ハッ、太史翔の奴、このままだと攻め切られて負けると思って、一か八かの賭けに出たな」

「どういうことだ?」

「領主同士が一騎打ちしたら、勝ったほうが負けたほうのすべてを手にすることができるんだ。領地も、財も、人材も――」
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