193 / 345
十話 至高への一歩
真実の一端1
しおりを挟む
「俺は誠人に強くなってもらいたい。だから本気で戦えなくなる憂いを取り払ってやろう。ここなら運営のヤツらに気づかれにくい。秘密を話すには都合がいい」
「……なんだって?」
思いがけないことを華候焔に言われて、俺は目を丸くする。
秘密……この世界のことを教えてくれるのか?
どうして焔は知っているんだ?
話を聞く前から疑問が次々と俺の中から湧き上がってくる。
硬くなってしまった俺をジッと見つめた後、華候焔は上体を引いて座り直し、手元の箸を摘まみ上げた。
「食べながら話そう。せっかくの料理が冷めてしまうのはもったいないからな」
「あ……ああ」
促されて俺も箸を手にすると、ぎこちない動きで並べられた料理を口にしていく。
酒のつまみになるように作られているのだろう。全体的に味が濃い。それだけを食べていると口の中がくどくなってしまうが、中華風の白い蒸しパンに挟んで食べると丁度いい。
数口ほど食べ進んだ頃、華候焔が話を続けた。
「運営側もゲームの本筋から離れた享楽の情事まで、逐一監視したくはないからな。ここなら色々と話せる。そのものを言えばさすがに気づかれるが、ぼやかしながらなら大丈夫だ」
話ぶりからすると、華候焔は『至高英雄』の裏を知っているようだ。もしかすると俺や仲林さんが知りたいことを掴んでいるのかもしれない。
緊張で俺の口の中から料理の味が消える。
そんなに力むなと言いたげに、華候焔はフッと笑った。
「ここは誠人のいる世界とは違うが、作り物とは思えないほどよくできている……だがな、所詮は作り物。さっきの女たちを見たか? 誰かひとりでも顔を思い出せるか?」
華候焔の指摘に俺は思わず息を引く。
言われてみれば確かにそうだ。ついさっき見ていたはずなのに、料理を運んでくれた女性たちの顔がまったく印象に残っていない。
さらに言えば華候焔に話しかけてきた女性が微笑んでいたことは分かったが、顔の造形は意識に入ってこなかった。
俺の反応を見て、華候焔が短く頷いた。
「名前のない者は、あくまでこの世界を回すだけの存在だ。生きているように見えるだけで、実際はそうじゃない。ここで命がある者は、名前を持っている者だけだ」
名前付きの者だけが生きている――つまり戦で兵士を率いる将だけが生きていて、他はゲームのデータに過ぎないということなのか?
しかしゲームの中に俺が体ごと入っている状況を考えると、すべてがゲームとは思えない。作り物の世界に生身の人間を招くなんて、いくら技術が発達した現代でも無理な話だ。
得心がいかない俺へ、華候焔はさらに答えを与えてくれた。
「誠人の言いたいことは分かる。ここはすべてが造られた世界じゃない。誠人のいる世界とは違う異世界に、特別な魔法をかけて『至高英雄』の世界にしているんだ。だから名前付きの将の中には異世界人もいたりする」
「……なんだって?」
思いがけないことを華候焔に言われて、俺は目を丸くする。
秘密……この世界のことを教えてくれるのか?
どうして焔は知っているんだ?
話を聞く前から疑問が次々と俺の中から湧き上がってくる。
硬くなってしまった俺をジッと見つめた後、華候焔は上体を引いて座り直し、手元の箸を摘まみ上げた。
「食べながら話そう。せっかくの料理が冷めてしまうのはもったいないからな」
「あ……ああ」
促されて俺も箸を手にすると、ぎこちない動きで並べられた料理を口にしていく。
酒のつまみになるように作られているのだろう。全体的に味が濃い。それだけを食べていると口の中がくどくなってしまうが、中華風の白い蒸しパンに挟んで食べると丁度いい。
数口ほど食べ進んだ頃、華候焔が話を続けた。
「運営側もゲームの本筋から離れた享楽の情事まで、逐一監視したくはないからな。ここなら色々と話せる。そのものを言えばさすがに気づかれるが、ぼやかしながらなら大丈夫だ」
話ぶりからすると、華候焔は『至高英雄』の裏を知っているようだ。もしかすると俺や仲林さんが知りたいことを掴んでいるのかもしれない。
緊張で俺の口の中から料理の味が消える。
そんなに力むなと言いたげに、華候焔はフッと笑った。
「ここは誠人のいる世界とは違うが、作り物とは思えないほどよくできている……だがな、所詮は作り物。さっきの女たちを見たか? 誰かひとりでも顔を思い出せるか?」
華候焔の指摘に俺は思わず息を引く。
言われてみれば確かにそうだ。ついさっき見ていたはずなのに、料理を運んでくれた女性たちの顔がまったく印象に残っていない。
さらに言えば華候焔に話しかけてきた女性が微笑んでいたことは分かったが、顔の造形は意識に入ってこなかった。
俺の反応を見て、華候焔が短く頷いた。
「名前のない者は、あくまでこの世界を回すだけの存在だ。生きているように見えるだけで、実際はそうじゃない。ここで命がある者は、名前を持っている者だけだ」
名前付きの者だけが生きている――つまり戦で兵士を率いる将だけが生きていて、他はゲームのデータに過ぎないということなのか?
しかしゲームの中に俺が体ごと入っている状況を考えると、すべてがゲームとは思えない。作り物の世界に生身の人間を招くなんて、いくら技術が発達した現代でも無理な話だ。
得心がいかない俺へ、華候焔はさらに答えを与えてくれた。
「誠人の言いたいことは分かる。ここはすべてが造られた世界じゃない。誠人のいる世界とは違う異世界に、特別な魔法をかけて『至高英雄』の世界にしているんだ。だから名前付きの将の中には異世界人もいたりする」
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる