上 下
192 / 345
十話 至高への一歩

間接的な口説き

しおりを挟む
 
 
 
 引きずり出すように華候焔は俺の手を掴んで謁見の間を離れた。

 てっきり俺の部屋に行って押し倒すのだろうと思っていたが、予想に反して華候焔は俺を夕方の城下町へ連れ出し、三階建ての酒場へと連れ込んだ。

 一、二階はすでに町民や旅人などが席を取り、料理と酒を楽しんでいる。店内の賑わいも熱気も、現実のものと変わらない。

 俺たちが通された最上階は、下層の喧騒が嘘のように静まり返っていた。どうやら特別な客をもてなすための場所らしい。窓は大きく開かれ、赤くて低い手すりの向こうに広がる城下町と城の眺めに俺は目を奪われる。

 未だに実感が湧かないが、ここは俺の領地。
 今まで戦いやゲームの秘密や人間関係のことばかりに気が向いてしまい、城の外で息づいている市井のことまで考えられなかった。

 景色に目を奪われて立ち尽くしていると、華候焔が小さく笑いながら俺の肩に手を置いた。

「良い眺めだろ? たまには城の外で食べるのも悪くないと思ってな」

 促されるままに部屋へ入り、俺たちは脚の低い机を挟みながら窓側へ座る。

 おもむろに華候焔がパン、パン、と手を叩くと、料理を手にした女性たちが机の上に並べてくれる。
 その内のひとりが華候焔に近づき、艶やかに微笑みながら尋ねた。

「華候焔様、当店へお越し下さりありがとうございます。今日はどのような者を手配致しましょうか? 領内の美しい娘を揃えておりますわ。華候焔様の望まれる娘が必ずおりますかと――」

「すまないが今日は二人で静かに楽しみたい。どうか構わないでくれ」

「まあ、それは残念ですわ。大陸一の遊び上手とお聞きしておりましたから、私も含めて店の娘たちも楽しみにしておりましたのに……」

「期待させて悪かったな。その肩書きはもう過去のものだ。今はこの地の領主にすべてを捧げている身。刹那の浮気すらできぬほど、俺の心は領主様で占められている」

「フフ……領主様に妬いてしまいますわね。それでは失礼致します。どうかお二方とも、ごゆるりとお楽しみ下さいな」

 艶のある女性は軽く会釈すると、他の女性たちとともに部屋を出ていく。

 静かに引き戸が閉まり、彼女たちの気配が完全に消える。
 不意に華候焔が俺を見つめながら、愉快げに笑った。

「どうした誠人、顔が赤いぞ?」

 ……あんなに堂々と俺への想いを口に出されて、何も思わないはずがないだろう。
 ただ食事するだけの場所ではないことぐらい分かったが、断るならば最初の言葉だけで十分だというのに。

 隙あらば間接的でも口説いてくることに俺が頭を抱えていると、華候焔の目が細まった。

「昔ならば退屈しのぎに遊んでいたが、もう遊び女との戯れでは微塵も気を紛らわすことができぬ体になってしまった。しっかり責任は取ってもらうからな」

「焔……むしろ取り返しがつかない体になったのは、俺のほうなんだが」

 ずっと思っていたことを俺が呟くと、華候焔は短く首を横に振った。

「誠人はまだ引き返せるだろ。この世界と俺に染まり切っていない……俺と同じ場所に立っていない。その他大勢のせいで気が散っているようだからな」

 心の引っ掛かりを見抜かれて、俺の胸がドキリと跳ねる
 動揺を覗かせてしまった俺を見逃すはずもなく、華候焔は机に腕を乗せ、身を乗り出しながら顔を近づけた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...