191 / 345
十話 至高への一歩
葛藤
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
コンパウンドボウの演習を終えて城へ戻ってすぐ、才明から正式に太史翔の所へ攻め込もうと提案された。
この世界で勝ち上がることが目的である以上、戦うことは避けられない。
俺が勝ち続けることを望んでいるから、才明も華候焔も俺の力になってくれている。今さら戦えないと怖気づいて引き下がることはかった。
気づいてしまった可能性に動揺していることを気づかれぬよう、俺は普段通りを心掛けながら伝える。
「……分かった、直ちに準備を進めてくれ」
「ありがとうございます。既に準備を進めていましたから、明日にはここを出立し、進軍することができるかと思います!」
ニヤリ、と才明の口端が不敵に引き上がった。
「私の力を過小評価し、不遇してきたこと……忘れておりませんから。どれだけ人を見る目がなかったかを思い知らせてやろうと望んでいたことか」
「頼もしいですねー! サクサク進軍して目にもの見せちゃいましょうー!」
白澤が才明の隣に並んでくるりと虚空を回る。彼らのやり取りを見る限り、ウマが合っているようで何よりだと思う。
ただ、今は戦に対して引っかかりを覚えてしまうせいで、人と戦うことを喜んでいるように見えて辛い。思わず表情が陰りそうになっていると、
「明日には進軍を始めるなら、誠人様にはしっかり休んでもらわんとな。人選や兵糧の手配なんかは、お前たちでやっておけよ」
ポン、と華候焔が俺の肩に手を置き、隣に並びながら告げてくる。
瞳だけ動かして見上げれば、目が合った瞬間に華候焔が小さく苦笑する。
俺の心を読んでこの場から離そうとしてくれているのだろう。その気遣いが嬉しくもあり、己の不甲斐なさに泣きたくもあった。
「承知しました。明日の準備は私たちですべて行いますから、誠人様は明日に備えられて下さい。いくら強力な武器があるとはいえ兵力差は歴然。兵たち士気を高める誠人様の参戦もまた大切な武器ですから」
才明もまた俺の状態を察したらしく、華候焔の提案をすんなりと受け入れる。
唯一、白澤だけは不満げに唸った。
「んー……華候焔、誠人サマのお休みの邪魔はしないで下さいよー? なんだかんだ言って誠人サマに手を出して、明日に響くようなマネをしないで下さいー」
「少しは信用しろ長毛玉。いくら俺でも手を出していい時と悪い時ぐらいはわきまえる」
「どう見ても普段からわきまえていないんですけどー。信用できるワケがないでしょー」
相変わらずな華候焔と白澤の言い合いが始まり、少しだけ俺の胸が安堵で軽くなる。
それでも淀んでしまった心の内は晴れず、俺は小さく息をついた。
コンパウンドボウの演習を終えて城へ戻ってすぐ、才明から正式に太史翔の所へ攻め込もうと提案された。
この世界で勝ち上がることが目的である以上、戦うことは避けられない。
俺が勝ち続けることを望んでいるから、才明も華候焔も俺の力になってくれている。今さら戦えないと怖気づいて引き下がることはかった。
気づいてしまった可能性に動揺していることを気づかれぬよう、俺は普段通りを心掛けながら伝える。
「……分かった、直ちに準備を進めてくれ」
「ありがとうございます。既に準備を進めていましたから、明日にはここを出立し、進軍することができるかと思います!」
ニヤリ、と才明の口端が不敵に引き上がった。
「私の力を過小評価し、不遇してきたこと……忘れておりませんから。どれだけ人を見る目がなかったかを思い知らせてやろうと望んでいたことか」
「頼もしいですねー! サクサク進軍して目にもの見せちゃいましょうー!」
白澤が才明の隣に並んでくるりと虚空を回る。彼らのやり取りを見る限り、ウマが合っているようで何よりだと思う。
ただ、今は戦に対して引っかかりを覚えてしまうせいで、人と戦うことを喜んでいるように見えて辛い。思わず表情が陰りそうになっていると、
「明日には進軍を始めるなら、誠人様にはしっかり休んでもらわんとな。人選や兵糧の手配なんかは、お前たちでやっておけよ」
ポン、と華候焔が俺の肩に手を置き、隣に並びながら告げてくる。
瞳だけ動かして見上げれば、目が合った瞬間に華候焔が小さく苦笑する。
俺の心を読んでこの場から離そうとしてくれているのだろう。その気遣いが嬉しくもあり、己の不甲斐なさに泣きたくもあった。
「承知しました。明日の準備は私たちですべて行いますから、誠人様は明日に備えられて下さい。いくら強力な武器があるとはいえ兵力差は歴然。兵たち士気を高める誠人様の参戦もまた大切な武器ですから」
才明もまた俺の状態を察したらしく、華候焔の提案をすんなりと受け入れる。
唯一、白澤だけは不満げに唸った。
「んー……華候焔、誠人サマのお休みの邪魔はしないで下さいよー? なんだかんだ言って誠人サマに手を出して、明日に響くようなマネをしないで下さいー」
「少しは信用しろ長毛玉。いくら俺でも手を出していい時と悪い時ぐらいはわきまえる」
「どう見ても普段からわきまえていないんですけどー。信用できるワケがないでしょー」
相変わらずな華候焔と白澤の言い合いが始まり、少しだけ俺の胸が安堵で軽くなる。
それでも淀んでしまった心の内は晴れず、俺は小さく息をついた。
0
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる