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十話 至高への一歩
山腹での設置
しおりを挟む城下町を出て、才明は俺たちを近くの山へと案内していく。
森の中をしばらく馬で進んだ後、勾配が厳しくなってきた所で徒歩に切り替える。
そうして山の頂上付近まで近づくと、既に才明が手配していた兵士とコンパウンドボウが視界に入ってきた。
「みなさん、ご苦労様です。しっかり固定できたようですね」
才明はひとつずつ設置されたコンパウンドボウを見て回っていく。
両端に小さな滑車を取り付け、より強く弦を引くことができる弓。
固定して使用することを前提に作ったものは、持ち運ぶものよりも二回りほど大きい。
よほど嬉しいのか、才明の顔がウキウキと輝いている。こんなに喜んでいる才明を見るのは初めてだ。
初めて会った時は一切心を見せない、掴みどころのない男だと思っていたが……色々あって才明の人となりを知った今は、むしろ分かりやすい男だという認識だ。
自分の目的のためにこの世界で生きている才明。俺と同じ目的を持つ――この『至高英雄』の世界の秘密を知りたがっている同志。今の俺にとって才明の存在は心強い。
普段は俺を支えてもらっているばかりだから、こうして才明の望みを叶えることができて良かった。
俺が才明に対して頼もしさと微笑ましさを感じていると、隣に並んだ華候焔が苦笑を漏らした。
「まるで新しいオモチャをもらったガキだな。そんなにはしゃいで……まあ俺も使えば遠距離攻撃で本営を潰せるから、戦いが楽になるなあ」
「そんなこと言って、華候焔殿は直に戦いたいお人なのでは? 相手の顔を見ずに潰しても、手応えがなくて消化不良を起こしそうですね」
いつの間にかこちらに顔を向けた才明が肩をすくめる。
確かに本気を出したがっている華候焔が、さらに熱を感じさせない戦いをするとは思えない。
本質を読まれて不快に思ったのか、華候焔から小さな舌打ちが聞こえてくる。しかし、
「持て余した分は別で解消すれば良いだけだから、俺は一向に構わないが? むしろ戦で消費する分も全部そっちに回して、どれだけやれるか試してみるのも一興だな」
……やめてくれ。俺の身がもたない。
華候焔が俺で解消したがっている気配を察して、俺は全身を強張らせる。
小さな変化だけで察してしまう華候焔と才明が、俺の様子に気づいて視線を定めてくる。そして互いにフッと理解し合ったような笑いを浮かべた。
「それでしたら近い内に準備致しましょうか?」
「おっ、頼んだぞ」
勝手に決めないでくれ、と言葉にするより早く伝えたくて、俺は小刻みに首を横に振る。
ここで意思表示しなければ本当に実現してしまう。俺の必死の訴えを汲んだように、白澤が俺たちを仕切るように間に入ってくれた。
「誠人サマをからかうのはやめて下さいー! 不当な褒美の搾取は許しませんからー! もし本気でやるつもりでしたら、お二人にずーっと付きまとって説教し続けますからー!」
白澤の気迫と、本気でやりそうな気配を感じて、華候焔があからさまに顔をしかめる。才明も「悪ふざけが過ぎましたね」と眉を潜めた。
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